和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

Mo-Fi。さて、音質はどうか?

先日入手した Blue Microphone のヘッドフォン:Mo-Fi。 記事、第2回目の今回は使用感や音質についてです。

2014年11月16日、一部加筆修正しました。
2015年1月25日、一部加筆修正しました。
2015年9月29日、一部加筆修正しました。

※本品は米国Amazonの日本直送サービスを利用して入手したものです。米国での発表直後である2014年10月の購入です。(US価格$349.その後3ヶ月以内に2度の初期不良で交換。)日本で販売が開始された最新のモデルは仕様や音質に改良・変更が施されている可能性があります。

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大きい・重い

前回お伝えしたとおり、実物を手にして最初に驚いたのは大きさ。これまで使ってきた「ゼンハイザーHD25」との比較でかなり大きいというお話です。それはまず、HD25が「耳載せ式」のイヤーパッドなのに対して、Mo-Fiが「耳覆い式」を採用しているためです。耳覆い式だけでもイヤーパッドは大きくなりがちなのにMo-Fiの場合は他社の耳覆い式ヘッドフォンと較べてさらにイヤーパッドがぶ厚く、大仰な印象です。またMo-Fi最大の特徴である特殊リンクを備えた屈強そうなヘッドバンドがひときわ目立ち、余分に大きい感じが否めません。スタジオや家庭内で使うのには全く問題無いですが、街や電車の中に持ち出すのには多少の勇気が必要かもしれません。

次は重量です。ケーブルを除く本体で475グラム。HD25が146グラムですから3倍以上。イヤーパッド形式の違いはあれ、特記事項となるでしょう。重量増の理由として、Mo-Fiに備わっている巨大なイヤーパッド,ヘッドフォンアンプ等の回路,それを駆動する充電池と挙げてまいりますが、一番の要因は、Mo-Fiの個性的なヘッドバンドを実現するための部材…その大部分を構成する金属部品によるものと思われます。

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ヘッドバンドの構造部各所に採用された金属部品のおかげで、ヘッドバンドの頭部アジャスト機構の稼働は本当に頼もしく滑らか。価値ある製品を手に入れたと思う瞬間です。いやしかし、これはヘッドフォン。こんなに重くてどうするの?。特殊なアジャスト機構を完ぺき主義で実現させた結果、「気付いたら重くなっちゃいました!」という流れではないでしょうか。

などと考えつつ、Mo-Fiを耳のベストな位置にセットし、オーディオ機器のプレイボタンを押します。すると、さきほどまでの、大きさや重さに対して指摘したい気持ちはスッと消え去りました。きっと多くの人が "リッチなBlueの世界" に引き込まれてゆくことになるでしょう。

音は優れているが高音域は控えめ

・・・ここからは音質についての記述になります。主観が多分に入り込む領域です。

その前にお知らせしたいことが。Mo-Fi購入から五日ほどのうちに偶然にも、作曲家でスタジオ録音機材に詳しくハイエンドなオーディオを所有の親友と、オーディオやカメラに精通されていてその世界での魯山人のようなかた、おふたりに立て続けに試聴して頂ける機会がありまして、いずれのかたからもMo-Fiについて高い評価を頂戴したことをお伝えしておきます。

まずは標準的な使い方となる、内蔵ヘッドホンアンプ「ON」の状態にて。最初の一音を聴いてすぐ、Mo-Fiが多くのコンシューマー機にありがちな「ドンシャリ(※注1)」系の音では無いことを実感します。低音から高音までちゃんと出せるドライバー(=スピーカー)を備えながら、低音や高音を強調しない設定がMo-Fiの基本です。

長年HD25で音楽を聴いてきた自分にとってMo-Fiは、特に周囲の騒音がある電車内や街において、最初は高音がかなり不足しているかな?と感じました。しかし慣れとは恐ろしいもので、まもなくのうちにそれほどは気にならない程度に。むしろHD25に戻るとシャリンとした高音が耳障りに感じてしまうほどです。そのあたり、人間はいい加減なものです。もっとも、慣れたと言っても、インストゥルメンタル(=楽器)系の音楽では、あと少し高音が欲しいです。

そもそもMo-Fiの想定される用途がスタジオモニターであるから、高音を強調しないフラットな設定なのかもしれません。スタジオで使うヘッドフォンの音が「修飾」されていたら、正しい録音は出来ないですから。

その後、都内のジャズ喫茶(この世界では有名なお店)にうかがったところ、店内の大きなJBLが奏でる音はHD25よりもMo-Fiに近いものでした。しかしやはり、SONY系のクリアでシュッと伸びる高音に慣れた人にとりましては、私の手元にあるMo-Fiの、高音域控えめな音を受け入れるのは難しいことでしょう。2015年9月には日本のBlue正規代理店でもMo-Fiの取り扱いが開始されたようです。最新ロットの音質について私の個体のような初期モデルとの違いは有るのか、興味深いところです。

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愛機「 ゼンハイザー HD 25-1 II 」

(ところで念のため申し上げますが、HD25に対しての魅力と想いは、Mo-Fiを手にしてからも少しも変わっていません。いままで宣言してきたとおり、YMOのライブ録音盤(版)を聴くのに、私にとってベストな製品です。)

ボーカル入りの曲がイイ

ボーカルの入っている曲ですと俄然、Mo-Fiの威力が発揮されます。人の声の大きな抑揚に負けない充分なパワーとスピード感、雑味の少ないつややかさ、それらがちゃんと両立しつつ鼓膜に迫ってきます。できれば圧縮率の低い音源で聴きたくなる、ソースの良さがちゃんとフィードバックされるヘッドフォンです。

上手く説明できないのですが、HD25は低音がボンボンと豊かなものの、注意深く聴くと、ドライバーのハウジング(ケースの部分)の作りで低音を補強しているフシが見られます。素早いアタック系の低音に若干の余韻が残るのです。(→悪いと言っているわけではありません。)一方のMo-Fiでは同じ低音でも余韻が少ない気が。Mo-Fiは低音のコントロールをあまりハウジングに頼らずヘッドフォンアンプの制御のみにゆだねている感じで、音の「立ち下がり」が早いような気がします。結果として、HD25の、音量を上げた時の賑やかでゴチャゴチャっとした印象に較べ、Mo-Fiでは「パワーはあってもスッキリした感じ」という差を生んでいるようです。

スイッチを「ON+」にすると、ヘッドフォンアンプの音質が低音補強モードになります。ポップス系の軽い低音域ではなく可聴範囲の割と低いほうが補強されるので、ジャズのベースの存在感を確かめたいなど明確な目標がある時のみ使うのが良いと思います。あとは小音量時のラウドネス的効果として。「ON+」を常用することで知らず知らずのうちに耳への負担をかけてしまう恐れを思うと、基本的には「ON+」ではなく「ON」にしておくのが賢明でしょう。

スイッチ「OFF」はヘッドフォンアンプを使わないモードです。ドライバー自体の特性があらわになり、また音量はガクッと下がります。「ON」時よりもボリュームを2~3段上げることに。しかし音質は決して悪くはない。いや「OFF」こそMo-Fiの基本ではないかな。ヘッドホン端子側に充分なパワーがあるのでしたら「OFF」で使うのがベストのようです。一部のノイズキャンセリング付きヘッドフォンでは、パワーをOFFにすると妙にみすぼらしい音になってしまうものがありますが、Mo-Fiではそのような心配はありません。同様に外出先でMo-Fiの充電池が切れてしまっても、普通のヘッドフォンとして機能します。

残念なこともありました。「ON」と「ON+」の時、ホワイトノイズが気になります。曲間等の無音部分で「シー」という感じの音が聴こえます。過剰に意識しない限り、曲が始まってしまえば大丈夫なのですが。

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Mo-Fi は iPhoneケース「TYPO2」とお似合い?

私のMo-Fiへのもうひとつの期待は「直径50mmのドライバーが生む音」でした。HD25のドライバーは40mm。masaが使っているSONYの話題の製品「MDR-1」シリーズも40mmです。メーカーごとにドライバー直径の計測基準に差はあるでしょうけれど、50と言うからには40よりは大きいはず。結果は、そうですね・・・耳に余計な負担がかかるかな。全体的なパワー感は嬉しいですし、直径が大きくなっても繊細な音は聴こえています。でも調子に乗って長時間聴いていると曲によっては耳の奥に鈍痛が。気をつけたいところです。50mmによるメリットか分かりませんが、聴こえる「音のサイズ」が大きいこと,それと耳覆い式にありがちなイヤーパッド内の「空間感(※注2)」が感じられず、耳載せ式イヤーパッドのHD25と同等の、音がダイレクトに伝わる感覚が楽しめます。

密閉式ではなかった!

さて、ひとつ驚きが。Mo-Fi。手元に届くまでずっと「密閉式ヘッドフォン(※注3)」だと思っていました。公式サイトの仕様欄にも「Sealed over-ear design」の一文が。しかし、周囲の音が思いのほか侵入するのです。外側のBlueのロゴの部分を両手で塞いだら、周囲の音が静かになりました。いわゆる「半開放型」というジャンルでした。(遮音性能が低いはずの耳載せ式イヤーパッドを採用しているHD25のほうが周囲の音が侵入してきません。)調べますと他社のヘッドフォンで、低音再生のレスポンスを改善するため、密閉式でありながらドライバーの背面側にポート(要するに穴)を設置する例もあったので、そうした効果をもくろんでのものかもしれません。(前述したMo-Fiの「立ち下がりの早さ」の秘密はこのあたりにあり?)ということでMo-Fiは、再生音量によっては音が周囲にわずかに漏れますし、電車内や航空機内(いずれも確認済み)の騒音下における、密閉式ヘッドホンが有する遮音効果を、Mo-Fiには期待できません。

もうひとつ。私の個体では電車内で時折、弱いノイズ音の混入と再生音の低下が同時に発生する事象がありました。周囲の携帯電話からの電波の影響を受けているような感じ。もしヘッドフォンアンプ回路等のシールド(電波遮へい)が弱いのであれば、改良が必要なのではないかと思います。

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パワーON時、両サイドにアンバー色の照明が点灯

いろいろ重箱の隅をつつくような話になってしまいました。総合的にはおおむね満足。アマゾンで言うところの、☆4つです。減点分は過大な重量。それと少し足りない高音成分についての不満から。

思い返すと8年ほど前、初めて買った武骨なルックスのHD25を付けて電車に乗るのにはかなりの勇気が必要でした。けれども今ではHD25を使っている人はかなり増え、時折女性ユーザーを見かけることもできます。それを思えば、少々サイズは大きいながら、革新的なヘッドバンドと個性的スタイリング、ヘッドフォンアンプ内蔵の単純明快なシステムとパワフルかつ繊細な音によって、Mo-Fiはこの先、日本でも多くの人達に選ばれることになるでしょう。

[ Blue microphones Mo-Fi 公式サイト ]

※注1:ドンシャリ→本来録音されている音よりも低音(ドン)や高音(シャリ)が若干強調された音作りのこと。傾向として楽器主体の曲で賑やかな音になります。ドンシャリな音が「良い音」と思う人は多く、コンシューマー(=一般ユーザー)向けヘッドフォンの音作りとしてはごくまっとうなものです。相対的に人の音声領域とされる中音域は抑えられるので、ドンシャリが程度を越えるとボーカル(歌声)の力強さや曲そのものの骨太さが失われることもあります。他方で、低音や高音は周囲の騒音にかき消されがちなので、屋外で使うヘッドフォンでは多少ドンシャリな音作りのほうがちょうど良いとも言われています。しかし、最近は曲そのものが最初から極端なドンシャリ設定で録音されているものもあり、ヘッドフォンの音質はどうあるべきか?をひとことで説明するのは以前よりも難しくなっています。

※注2:空間感→私の造語です。耳覆い式のヘッドフォンでは、耳を囲うための空間がイヤーパッドの内側にあります。一部のヘッドフォンでは、この空間の中で音が反響しているような、まどろっこしい音鳴りがするものがあります。このことを指した言葉です。

※注3:密閉式ヘッドフォン→ドライバーの周囲をケースで囲みイヤーパッドにも工夫をして、ドライバーが発する音をリスナー以外の周囲に漏れない、それと同時に周囲の騒音がリスナーの耳に紛れ込まないようにしたヘッドホン の形式。密閉式に対して、ドライバーのケースが開放されているタイプを「オープンエア式ヘッドフォン」などと呼びます。

→ 次回記事:「 Mo-Fi 使って3週間 」