和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

文房具の評価は難しい

雑記です。

 
先日、筆記具関連の方々とお話をする機会がありました。私よりもだいぶ先輩の人達です。要約しますと「筆記具や文房具に対する公の場での評価は難しい。」という内容です。
 
Aさん、とある席で「ここは改良したほうがよいかも。」と語ったところ、そのことが巡り巡ってメーカーの人達に伝わって、しかも「Aさんはこの製品の悪口を言っている」みたいな内容に変化してしまい、メーカーの営業担当さんあたりの心証を悪くしたとか。
  
これは不幸な事例だったと思うのですが、製品について批判的な評価をすると、メーカーの、特に広報や営業の人達がご機嫌を損ねるパターンは私にも少し経験があります。良かれと思っても迂闊にクチに出してはいけないと、いつも気を使います。
 
似たような問題は自動車評論の世界にもあるようです。日本の産業のトップクラスに位置する世界でも解決出来ていない、難しいテーマなのかもしれません。
 
あえて「辛口評価する」と宣言し、それを生業(なりわい)にしているかたも居られるようですが、「ファン上がり」のブロガーのような人の場合、多くはユーザー目線それも文具愛(?)を伴って評価をしている気がするのです。ユーザーは使いやすい・カタチの良い製品を常に待っているのですから。そう言う私も「ファン上がり」のひとりです。
 
直接メーカーへの取材をしてみると、研究・開発系の人ならばストレートな批判にも割と理解をしてもらえる場合が多いです。「自分たちもそう思っている。」みたいな感じで。広報・営業系であっても、自分の会社を冷静に見ているような人には問題は無いような気がします。いずれにしても、まずは各メーカー担当者との適切な人間関係の確立。下地作りからということになるのでしょうか。でもそれも大変だなあ。
 
メーカー側からだけでなく、ユーザー側からストップがかかった時もあります。5年位前に少し書いてみましたら「影響力のあるあなたが言わないほうが良い」とコメントが。たいした影響力は無いと思うのですが、なによりユーザー側から言われてしまったことに気持ちが萎えたのを思い出します。
 
ところで、文房具に対する「目利き」でしかも製品の実情にも詳しい人であるのに、「業界の活性化を第一に」というポリシーからか製品やメーカーへの批判的言動を一切しない人が居られます。私はそういう人の気持ちに一定の理解は出来ます。ややこしいのは、そもそも物を見る目が無くて当たり障りの無い事しか言えない人や、なんらかの「目的」があって良い事ばかり言う人も混ざっている(らしい)こと。
  
このあたりは非常にナイーブな(=慎重に取り扱わなければいけない)問題ですが、より良い製品を手にしたいという動機付けで活動している人と、文房具というキーワードを利用してなにかを得たい人、つまり荒っぽく言えば「文房具な人」と「文房具のような人」の違いがあるようで気になっているのは確かです。
  
(「小売店主は全員後者じゃない?」というツッコミもあるかもしれません。でも小売店主にもこれらふたつのどちらかに分類はできる気がします。ただし後者のほうが商人として大成するとは思いますが。)
 
このさき、良いことばかり言う「のような人」たちの波に呑まれ、メーカー・流通・ユーザーの仲良し馴れ合いムードがスタンダードになって、あるべきディスカッションが出来ず、各者が無駄に時間を過ごしてしまうことにならないだろうかと、あまり看過できない危機感を感じています。そうはならないように、「文房具な人」が製品に対して忌憚なく評価ができる、有形・無形の場を確保するために、微力ながら私も尽力しなければいけないのではないかと思い至ったということです。
 
(文字にすると大袈裟ですね。)
 
一般の人々がウェブを使うようになって20年程になろうとしています。私はウェブが、商業性が高く一定の制約を要求されがちな紙の媒体とは違う、より自由な意見交換の場になるのではないかと期待していたのに、あいかわらず記名での、この言いづらいムードは何なのでしょう。
 
でももう50歳台に突入したので、昔で言えば立派な隠居ですし、少し言い始めてもよいのかなと。その言いかたは難しいですけれど。なにより製品と作り手への敬意、謙虚さ、そして文具愛を忘れずに、ということで。
 
*補足*
ここではライターさん(ただし本業としての)については言及をしていません。ライターは職業ですから。