和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

ゼンハイザー Momentum Wireless は「全部入り完成形ヘッドフォン」

  

初めてNC(ノイズキャンセリング機能)付きのヘッドフォンを買いました。ゼンハイザーの「Momentum Wireless」です。

 

・NC+Bluetooth の「全部入り」ヘッドフォン
・各所スマートに設計され、気持ち良く使える
・高価ですがトータルの性能として納得

 

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Sennheiser Momentum Wireless

 

エアコンの送風音や地下鉄の車内騒音など、「ブオーン」系の低音を専用の電子回路で打ち消し、イヤーカップ内に静寂な聴取空間を作り出すNC(ノイズキャンセリング)機能付きヘッドフォン。この分野はこれまで、アメリカのBOSE社が開発を先行させていて、手始めに軍需向けの製品を発表。のちにその技術を民生機にも展開した「QuietComfort」というシリーズを作り、大きなヒットとなりました。日本ではソニーがデジタルノイズキャンセリング方式を採用した製品を開発しています。ソニー製のは息子が持っており、これまで何度か試聴させてもらっています。

 

私はひごろ、密閉式のヘッドフォン:ゼンハイザー HD25シリーズを使っているため、NCヘッドフォンについては購入検討の優先順位を下げていました。しかしその後、NC機能だけでなく、ヘッドフォンケーブルを無いものにするBluetooth機能もセットにした、いわゆる「全部入りヘッドフォン」がいくつかのメーカーから登場し、HD25とは違う価値の製品として気になる存在にはなっていました。

「全部入り」の購入検討が本格化したきっかけは次期iPhoneについてのニュースです。どうやら、こんどのiPhoneは大幅な薄型をめざすため、通常のヘッドフォンジャックが無くなるかもしれないとの噂。特殊なジャックになるのか、それともジャックそのものが無くなりBluetoothに全面移行するのかはわかりません。でもそういう風向きであるのならばBluetoothヘッドフォンをひとつ手元に置いてみてもよいかなと思った次第です。

 

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耳をすっぽりと覆うイヤーカップ。イヤーパッドは本革製。

 

そのような折、昨年末から今年3月にかけてゼンハイザーがMomentumというヘッドフォンシリーズのBluetooth版を2機種発表していたことに気がつきました。ひとつめは「Momentum Wireless(無印)」。大型のイヤーパッドが耳をスッポリと覆ってしまう基本モデルです。ふたつめは小径の耳のせタイプのイヤーパッドを採用し小型化をはかった「Momentum Wireless On Ear」です。両者はイヤーパッドの表面素材にも違いがあります。「無印」版が本革であるのに対し「On Ear」は高級車のシートで時々使われている人工スエード調素材「アルカンタラ」が採用されています。

当初は後者、つまり「On Ear」が自分にとっての本命かと思って試聴に出向いたのですが、イヤーパッドのサイズから来る遮音性能やドライバ(スーピーカ部)の低音強調気味な音作りが自分の好みではないことがわかり、いったん取りやめに。どちらかと言うとフラットな音質でイヤーパッドの装着感も良かった本製品の購入となりました。

 

もともと「Momentum」は、ゼンハイザー社製ヘッドフォンとしてこれまでに無いデザインをまとった新しい製品シリーズの名称です。そういえば2013年のengadgetさんのイベントの際にMomentumの試聴をしていました。

昨年このシリーズが第二世代目となり、折りたたみ式ヘッドバンドの採用やイヤーパッドの形状変更(一部モデル)、カラーバリエーションの見直しなどのマイナーチェンジを受けました。その際に追加されたのが、NC+Bluetoothを備えたWirelessというバリエーションなのです。

 

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操作系と接続端子類はすべて右側に集約

 

本製品の印象は、とにかく「すべてがスマート(機敏・賢明・気がきいている)」であることです。それはBluetoothの同期確立操作から始まっています。箱から取り出し、パワーボタンの長押しを続けると、電源オン→同期確立→そのまま聴取可能な状態になります。スイッチはこの電源&同期ボタンとボリュームレバーのふたつだけ。ボリュームレバーをどちらか一方に軽くスライドしますと音量調整。ボリュームレバーをプッシュする操作で曲や動画の再生/停止・曲送り/戻しをリモート制御できます。あとは充電用のマイクロUSB端子と有線接続用のヘッドフォンジャック、通話用のマイクロフォンが備わります。

 

NC機能は電源が入っている間は常にオンです。この記事の最初の公開時、私は「これで良い」と書きました。しかし後になってオフにも出来るようにして欲しいと思うように。と言いますのも、低音ノイズ成分のレベルが一定以下のものであればNCによって効果的に取り除かれるのですが、例えば電車に乗っていて、その車両の個体差や線路の状態,速度とのかねあいで車内の振動が激しくなる環境下ではNC機能が追い付かないどころか収拾が付かないような状態になり、結果耳に大きな負担が掛かってしまうことがあるのです。またNCの動作が歩いている時の踵(かかと)からの振動やヘッドフォンに当たる風音との相性が悪いこともあり、ユーザーの任意でNCをオフにしたい時もありました。

  

カタログ値での音楽再生時間は最大22時間。たとえその日の朝に電源を切り忘れても帰路でちゃんと使える能力があります。ノートパソコンの場合、バッテリーの持ちはカタログ値の6〜7割程度ですが、本品は3時間ほど使ったあとでも英語で「あと18時間から22時間」とアナウンスがありましたので、製品が新品の状態ならばカタログ値と同程度の性能を発揮しそうです。バッテリーはこれまでのゼンハイザー製品のような着脱式ではなく内蔵型です。取扱説明書によると正規輸入元が認定したサービスセンターでバッテリー交換が行われるようです。

 

まだ細かい不明点はありますが、総じて簡単&快適。「良い物は人を困らせない」を具現化した製品です。

 

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HD25とのサイズ比較。

 

さて音質は・・・これが今回における一番説明の難しいところです。通常使用で常にNC機能がオンになっているため、環境音との関わりで音の聴こえの良さが結構変動している気がするためです。

まずはスペックの確認をしたいところですが、Momentumシリーズはドライバの直径がメーカーの仕様書において非公開になっています。ウェブを調べても40mmだったり32mmだったりと表記がバラバラ。それでウェブに見つけた分解写真から比率計算したところ、どうも40mmより小さそうです。大きめに見ても34mm位のようです。

 

ドライバ(=スピーカ部)の素性を知りたいので、敢えて付属のヘッドフォンケーブルをつないで聴いてみました。本体の電源をオフにし、ヘッドフォンケーブル経由で音楽を再生するとNC機能もヘッドフォンアンプも動作せず、ドライバだけの音を確認できるようです。結果は、意外にも締まりの無いフワフワとした音質でした。ゼンハイザーらしくない感じ。これがWireless専用のドライバなのか、Momentumは元々こういう音だったのか、引き続き確認しなければなりません。

次はヘッドフォンケーブルを外し電源をオンに。NC機能とBluetoothが稼働する通常の使用状態です。比較的静かな室内にて、「シー」とか「シャー」といったホワイトノイズはかなり少なめです。交通機関や街中はもちろんのこと、比較的静かな事務所でも気にならない程度です。夜間の寝室といったかなり静かな所にて、曲が無い時に気になる感じはあります。それとて曲が流れていれば大丈夫です。あと「高速なカサコソ」系の不思議なノイズが微量聞こえることが時々あります。

曲をかけます。ヘッドフォンアンプも稼働しています。電源オフ時に感じられた締まりの無い不安な感じは影を潜め、フラットでソツの無い音を奏でます。

ここで再掲したいのは、本機がBluetoothヘッドフォンであることです。けれどもそんなオーディオ的に負と思われるスペックを忘れてしまうほど音域は充分です。Bluetoothという言葉を聞いただけで色眼鏡で見る人もいますが、このMomentum Wirelessについては先入観を無くしたほうが良いかと思います。ただそうは言っても情報量の不足は無意識のうちでも感じます。好感なのは、不足した部分を変に修飾してごまかそうとしていないことです。それゆえ聴き続けてもそれほど嫌にはなりません。

 

ひごろHD25で聴いている私にとりましては、本機の高域と低域は控えめ。ひと言で表すならばフラット。インストゥルメンタルもボーカル中心曲もどちらも、ひとまずちゃんと聴けるバランスの良さ。曲によっては低域のパワーや高域のきらびやかさがもっと欲しいと思う時が。情報量が若干少なめながらBluetoothであることを考えれば立派。

 

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Mo-Fiとのサイズ比較

 

NCの性能は充分。テンピュール枕のようなモッチリとソフトなイヤーパッドとの相乗効果で遮音性は抜群です。と書いてはみましたが、実際にはこの製品、物理的にはちゃんとした密閉式のヘッドフォンでは無いような気もします。電源オフ時には周囲の環境音が思いのほか入ってくるためです。NC回路が相当頑張ってイヤーパッド内外の音を検出しながら、レベルの高い擬似遮音効果を実現させているのかもしれません。

 

電車内でずっとこのヘッドフォンを使っていますと外部の騒音など忘れてしまうのですが、ヘッドフォンを耳から外した瞬間、周囲の膨大な騒音に毎回びっくりします。トンネル内どころか地上を走っている時も、電車内の騒音、特にエアコンの低音ノイズって凄いのですね。

じつは人間の耳自体にも、環境音に合わせて無意識のうちに感度調整する機能があることが最近の研究で明らかになっているそうです。NCヘッドフォンを使っていると、その「フィルター値」がリセットされてしまうため、ヘッドフォンを耳から外した時に驚くことになるのだと思います。

 

記したいのはこれの中音域以上(音声帯域)の遮音性能についてです。私のか細い知識から、NC回路が打ち消せるのは中・低音域だけだと思っていたのですが、本製品は人の声の帯域も結構減衰させていることが分かります。たまたま隣に座った甲高い声のお子さんの声をかなり打ち消していました。

しかしNCヘッドフォン初心者としては、屋外での風切音や、走行する電車内等で身体を経由して直接伝わってくる低周波振動について、NC回路が不快な動作をする点については想定外でした。

利点はNC回路動作時の耳への「吸い出され感」の少なさです。BOSEのQCシリーズなどではパワーオン(=NCオン)になると静寂が訪れるのと同時に、鼓膜が外側に引っ張られると言いますか、気圧が下がるような不思議な感覚に見舞われるのですが、本機ではそれは皆無です。

   

次に装着感についてです。ソフトなイヤーパッドと軽いフレームのおかげで、装着していることを意識しないでいられるほど軽やかです。製品全体の見た目は大きいですが、首を多少振ってもヘッドホンの存在感はあまり感じません。実測265グラム。これで電池入りで長時間稼働するのですから驚きです。

イヤーパッドは本革なので、使わない時には涼しく乾燥したところでの保管をおすすめします。一度だけ汗も拭かずにカバンの中にそのままにしておいたら、サッと白いカビ様のものが出てきました。塩の結晶なのかな。革のクリーナーを使って手入れをすれば解決。

将来表面がベトベトになるのではないかとユーザーを不安にさせる、ソフト樹脂塗装の類は見られませんので、その点はよろしいかと思います。

イヤーパッドのカップ内側のサイズは少し控えめです。耳が大きい人には長時間の使用で窮屈に感じるかもしれません。店頭での試着をお勧めします。

 

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便利な収納モード

 

途中、ちょっと欠点めいた記述が続いてしまいましたが、NCヘッドフォンの、しかもBluetooth式ワイヤレスのスペックでありながら、音質は想像を越える良さであることは間違えありません。しかも、この種の製品で一番気になるバッテリの持ちは22時間です。ユーザーに特段の手間や心配を掛けさせず、「充分に良い音」と「NC機能」と「ケーブル・レスの快適さ」の合計3件をサラリと提供出来るのは優秀と言って良いでしょう。

 

最後に残る問題は「少々お高い」こと。このエントリーの執筆時点で米国の実売価格も同じくらいでした。まあ、これだけの価格をユーザーに出させるのですから、今後の万が一の際の電池交換など、正規輸入元さんのサポートはしっかりやっていただけるものと期待したいところです。

  

・2018年4月 追記:

早いもので、まもなく購入から2年になります。本機、今も気持ちよく第一線で活躍しています。

HD25(良い意味でのドンシャリ)とは違うフラットな音質には、有料のiPhoneアプリ「KaiserTone」のプリセットイコライジング「iTunesPerfect」を加えて心持ち高音域を上げてバランスを取っています。これでジャズもロックもポップスもオールマイティーに使えてしまっています。

購入当初に指摘したBluetoothゆえの情報量の少なさは屋外での聴取ならそれほど気になりません。聴き込みたい時は自宅でHD25で聴くという使い分けをしています。

日々の生活はNC+Bluetoothが当たり前に。屋外での移動時にHD25を使うことはほとんど無くなりました。使用頻度は出張時、つまり週に2~3回。バッグに収納する時はたたんで付属のソフトな袋に入れて大切にしているので外観はほぼ新品と同様。ヤツレやケーブルの破断、塗装のべたつきなど皆無です。

バッテリーの持ちに問題は出ていません。あと2年はこのまま使えそうです。ただし、ボリュームコントロールのレバーの反応が少し悪くなっているので、保証期間の2年になる前に一度ゼンハイザーさんに診てもらうつもりです。

なお本国や米国では昨年1月頃、本機の後継機である Sennheiser HD1 wireless というモデルが登場したようです。デザインは変わらず。新旧の仕様にも違いが見つかりません。単に希望小売価格の変更を目的として名称を変えただけのようにも思います。2018年4月の時点では、このHD1は日本では発売されていません。

なにかありましたら、また追記してまいります。

  

・2019年5月 追記:

本製品は国内での販売は終息方向のようです。

  

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