和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

ゼンハイザーHD250BTの絶妙な仕様設定に興味津々。

  

(2021年5月21日に全面加筆修正しました)
(2021年5月31日に第6項を追記しました)

  

昨年の秋頃より情報が公開され始め、ことし1月のCES2021で広く発表されたゼンハイザーのヘッドフォン:「HD250BT」。

日本での発売開始が待たれていた本品。その皮切りは量販店やヘッドフォン専門店からではなく、なんとAmazon。しかも「Amazon.co.jp限定モデル」という意外なプロモーションとなりました。

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SENNHEISER HD250BT パッケージ

  

1.仕様

HD250BTはオンイヤー(=耳乗せ)型の密閉式ヘッドフォンです。BTの表記のとおりBluetooth (Ver5.0) を介して音楽プレーヤー側と接続します。コーデックはAAC/aptX/aptX LL/SBCの4種。NC(=ノイズキャンセリング)機能は非搭載。ヘッドフォンケーブル接続にも対応していません。

通話やオンラインミーティングが可能なマイクロホン(感度良し)が備わっています。バッテリーの持ちは公称25時間と頼もしい長さになっています。

  

Amazonでの初値は¥11,000.(税込)。先立って発売された欧州では69ユーロと、その安さに驚いたのですが、日本でも非常に手ごろな価格でのスタートとなっています。

  

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SENNHEISER HD250BT

  

2.ゼンハイザーHD25とくらべて

ゼンハイザー製品のファンであれば、「HD250BT」と聞けばゼンハイザーの名機:「HD25」のBluetooth版ではないかとすぐに想像するはずです。上の写真のとおり何の飾りも無い、シンプルさを通り越してそっけないルックスのヘッドバンド。無塗装樹脂のハウジング。たしかにHD25の流れは感じます。

  

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ゼンハイザーHD25(ケーブル換装あり)

  

HD25は33年前の1988年に登場。高音域を際立たせ低音域に個性を持たせたセッティングや、武骨な見た目と丈夫な作りが特徴です。イヤーパッドやケーブルだけでなくヘッドバンドやドライバーユニットまでもパーツ単位で手軽に交換が可能なメンテナンス性の高さもあって、放送局(主にフィールド)でのモニター or 実況中継用途、あるいはDJ用のモニターヘッドフォンとして活躍の場を広げてきました。

私が購入した当時のHD25の箱にはENG(放送)とスタジオモニタリング向けと明記されていました。

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「ENG向け」と明記されたHD25の箱

それがここ十数年ほどの間では、iPodのようなデジタル音楽プレーヤーやiPhoneを始めとするスマートフォンの普及と歩調を合わせるかのように一般ユーザーにも急速に人気が高まります。また趣味としての「デスクトップDJ」を楽しむ方面にもユーザーが多いようです。

  

私もHD25の音に惚れ込んだひとりです。少し強調気味と思える高音域は、曲によっては耳障りなものの、周囲に雑音の多い環境や小音量での聴取時にも音の輪郭がつかみやすく都合が良いものです。高音域が不足しがちな古い音楽ソースでもそれなりに良く聴こえてしまう効果もあります。

低音域は近年に登場するヘッドフォンのほうがブースト気味で元気ですが、それなりのパワーとHD25独特の音圧の出方にはまってしまうのです。YMOの、特にライブ音源を聴くのにはHD25と決めています。

  

プロフェッショナル向けとして本来ならばヘッドフォンケーブル経由での使用が当たり前だったのが、Bluetoothが広く普及した現在において、一般ユーザーにとりましてはBluetooth版HD25の登場はひとつの関心事になっていたかもしれません。

私などはBluetooth版の登場を待ちきれず、HD25のケーブルを短く切り、ヘッドバンド上に取り付けたBluetoothレシーバーに直接接続して使用していました。(下記はその最新の記事です)

blog.sprg.jp

  

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HD25にBluetoothレシーバーを直結した例

  

そして昨年の秋、HD25のBluetooth版であることを想起させる型番:「HD250BT」のリークが始まったのです。

繰り返しになりますが、放送局やDJブースでの使用であればBluetooth接続にする必要はほぼ無いはずです。プロフェッショナル用途とは無縁の一般ユーザーがHD25のBluetooth版に求めているものは何か、何を実現すれば良いのかについて、ゼンハイザーは相当に検討したことでしょう。

果たしてHD250BTで表現されたのは、「高音域・低音域を強調した音」と「比較的荒い使い方にも耐えそうな武骨な外観仕上げ」のみで、それ以外のHD25らしさはスパッと省かれました。

たとえば、激しい動きや外付けマイクロホンの追加でも安定した装着が期待できる開閉2重式のヘッドバンドや、サウンドチェックが可能な左側ドライバーのはね上げ機構などはHD250BTには採用されませんでした。各部パーツ単位での交換についても全く考慮されていません。イヤーパッドの素材選定や作りもHD25と比べて非常に簡易的なものになっています。

  

HD250BTの仕様だけを見る限り、HD25のバリエーションというよりは、単なるゼンハイザー密閉式ヘッドフォンのローエンドモデルにも見えます。私としては少々ガッカリではありましたが、簡素な仕様で気軽に使えるし電池の持ちに不満は無い。なにより安い。まあ、ゼンハイザーは上手いところを突いてきたとは思います。

  

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操作ボタンとUSB-Cジャック

3.使い心地

操作ボタンは「+」と「・」と「−」の3つ。これで、電源ON/OFF、ペアリング、再生/停止、曲送り/曲戻し、バッテリーの残量確認までが出来ます。充電ジャックはUSB-C。充電状況を表示するLED(1灯)も備わります。

手にして最初に感じるのは軽さ(実測130グラム)です。首に掛けた時の収まりの良さも美点です。持ち歩きは全く苦になりません。折畳み機構は無いものの、そのままでも十分にコンパクトで、バッグに気軽に放り込むことができます。

これでカラーバリエーションでも登場しましたら、元となったHD25の事など全く関係無く、オンイヤー型ヘッドフォンのヒットモデルになる気がします。うん、カラーバリエーションは欲しい。

  

4.音質

お待たせしました、音質についてです。HD250BTは(あくまで傾向として)HD25の流れを汲む「高音域を強調した」明瞭快活な音作りになっています。それゆえ、街の雑踏の中でも音楽の輪郭をちゃんと捉えることができて、NC無しでも結構イケてしまいます。しかし、じっくり聴いてゆくとHD25との音作りの違いを確認できます。

  

この先の話を分かりやすくするために、ここで一度それぞれのヘッドフォンのイヤーパッドを外し、ドライバー部分を見てみましょう。

  

先にHD25のドライバー部から。最新のヘッドフォンとは違う風景に気がつきます。ドライバーは不織布みたいなものに隠されていて見えません。ドライバーの周囲には大きな開口部があり、その中に白いフェルトが見えます。

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HD25のドライバー部分

HD25のドライバーをさらに分解してみます。表の不織布のグリルを外すと直径33mmほどのドライバーが出現しました。こんなに小さいドライバーなのに、あの弾む低音が出るのには少々驚きます。

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HD25のドライバーを分解した様子

ドライバーを囲っていた白い大きなフェルトを取り出すと奥にもうひとつの開口部がありました。その開口部の奥にも別の吸音材が詰まっています。吸音材やフェルトを使ってドライバーの背圧を制御しているのか、あるいはドライバーの背面音から高音域を減衰させて残った低音成分をドライバー周囲に誘導しているのか、正確な目的は分かりません。

ただ、ドライバー背面側の音響成分を積極的にドライバー前面側の周囲に開放していることを伺い知ることはできます。

  

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HD250BTのドライバー部分

こんどはHD250BTのイヤーパッドを外したところ。ドライバーの直径はこちらも実測33mm程度。振動板が正面から丸見えで、ドライバー周囲の穴はHD25よりもかなり小さくなっています。

HD250BTでは、ドライバー正面からの直接音が主役になっているのかもしれません。考えれば右耳側ドライバーの奥にはBluetooth回路やヘッドフォンアンプ、バッテリー等が控えているはずで、ドライバー背面側の空間を左右で均等に利用しづらいという事情もありそうです。

ちなみに上の写真に見える4つのネジを外しますと、ハウジング(側枠)と、精密に成型された樹脂製密閉式ケーシングに収められたドライバーユニットの二つに分割ができます。つまりHD250BTのドライバー背面の空間容積はHD25のそれと比較して非常に小さいものであることも分かります。

  

イヤーパッドの形状にも大きな違いがあります。

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イヤーパッドと開口部の違い

HD25のイヤーパッド開口部はドライバーのサイズよりも小さい直径27mm。HD250BTのイヤーパッドは、ドライバーよりも大きい直径40mmです。それだけではありません。各イヤーパッドは内側の形状も大きく違います。

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イヤーパッド内側の違い

HD25は薄いスポンジ素材のシートを外して撮影しています。HD250BTのスポンジシートはイヤーパッドと一体で外せません。このままの写真では両者の違いが分かりにくいので、断面図を描いてみました。

HD25のイヤーパッド内側には大きな空間があります。また内面は比較的硬い樹脂素材で音の誘導路が形成されています。これにより、ドライバー正面音+ドライバー背面音をイヤーパッドの中でミックスして絞り、小さな穴を介して音を耳に注ぎ込む構造に思われます。

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イヤーパッド断面

右側はHD250BTのイヤーパッドです。開口部は直径40mmと大きめ。イヤーパッドのドライバー側はHD25とは違って吸音素材が縫製されていました。ここからもHD250BTではドライバーの正面音のみを聴かせようという姿勢を感じます。

  

あくまで想像ですが、HD25のハウジング断面と音のイメージを描いてみます。ドライバーの正面音(青色)と背面音(赤色)がこの絵のように分布している…のかもしれません。

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HD25の断面と音(イメージ)

   

さらにしつこく、こんどはHD250BTのドライバー周囲にある穴をふさいで試聴してみます。低音成分を多分に含んだ曲を大きめの音量で聴いてみたところ、穴の有無における顕著な差は感じられませんでした。しかし小音量時では穴をふさいだ時にエレキベース成分の粒立ちが後退した気がしなくもありません。
HD250BTにおいてこの穴は、ドライバーの背圧をダイナミックに制御しドライバーそのものが発する音響特性を調整する役目を果たしているらしく、これは多くの密閉式ヘッドフォンが採用している構造に近いものと思われます。

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HD250BT、ドライバー周囲の穴を埋めて試聴

  

こうした一連の構造や各部形状の違いから、HD25とHD250BTの「聴こえ」には、各ドライバーから出てくる直接の音質以前に相当な差異が存在しているようです。

「HD250BTの音にはスピード感があり、また音場は広くライブホール感がある」。いっぽう「HD25は中~低域の表現に独特の個性があり、音場の狭さは良い意味でタイトな感じを生んでいる」と個人的には捉えています。

  

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比較用のHD25(改造モデル)

今回、HD250BTとの比較用にはHD25の改造モデルを使いました。このBluetoothレシーバー部分にFiioのBTR5またはBTR3Kを接続。回路はバランス接続にしていますし、スペック的に正しい比較評価が出来ないのは承知です。私がひごろ聴き慣れた音との比較として読み進めてください。

  

当初から述べているとおりHD250BTの音は快活で「くぐもる」ところは無く、どの曲の高音域も伸びやかに聴くことができます。低音はスピーディーな印象で量感も豊かで(豊かを通り越している位で)、このあたりはいまどきのヘッドフォンらしいセッティングです。その低音はブーミー(=やたら膨らむ)ではなく、わりと整っていて音全体の輪郭を壊すことはありません。

低音から耳を守るために音量を絞っても、元々高音域がしっかりと出ているので音楽の存在感は失われず、街なかでの聴取に困ることもあまりありません。

かと言って相対的に中音域が不足するような「中抜け」もそれほど感じず、ボーカルの音域にも顕著な不足はありません。

  

HD25との決定的な違いは、やはりイヤーパッドの断面形状に起因すると思われる音場の広さの違いです。HD250BTはHD25よりも明らかに音場が広く、広い空間の中で音が鳴っている感じになります。ホールに居る感じ。アンビエントミュージックや、特定のジャズサウンドでは良いと思う反面、タイトさに欠けると感じる時もあります。しかし低音が相当強めに出ているため音がスカスカになるかと言うとそうでもなく。総じて「HD25とHD250BTのどちらがイイ?」ではなく、曲やジャンルによって使い分けるのが正解になります。

  

なおHD250BTはゼンハイザー純正のアプリを使って音のイコライジングが出来ます。私は基本的にイコライザーはOFFで使っています。

  

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ゼンハイザー純正アプリによるイコライジング

  

感心したのは最小音量域でもちゃんと音楽を楽しめることです。私は就寝前に極めてささやかな音量で曲を聴く時があります。スマートフォンの音量を最も絞った際にも高音域から低音域まで不自由無く「音の観察」ができます。各楽器もボーカルも聴き分けができます。

おそらく、動きの良いドライバー+専用に設計&セッティングされたヘッドフォンアンプや音声信号処理回路のおかげなのでしょう。

  

残念なのは、HB250BTに備わっている「+/−」のボタン操作がBluetoothを介したスマートフォン側の音量出力制御に直接適用されていることです。iOSですとまだ気にならないのですが、現状のAndroid OSでは音量制御の総ステップ数が荒く、微小音量域での細やかな音量制御ができません。

BTR3KやBTR5のような、(スマートフォン側ではなく)ヘッドフォンアンプ側の音量出力を細やかに制御する仕様であれば、HD250BTの微小音量域の素性の良さを理解してもらえたのになぁ、という気持ちです。

    

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ゼンハイザー HD25(BT改)とHD250BT


  

こうしたHD250BTの、現代的とも言えるスピーディーかつ精密で抜けの良い音を聴いてしまうと、HD25の音作りが少し古めかしくも感じてしまうのですが、エレキベースの「弦のバネ感」を思わせる「ズム」(?)といった言葉に表現しづらい音や、耳穴の中心に注ぎ込まれる「ブン」と来る音圧などはHD25ならではのもの。そこにBluetoothレシーバーのグレードを上げてゆけば当然、解像度がアップして聴き込める音になってゆくわけで、ドライバー周辺の構造の違いから当初予想された通り、「突き詰めれば両者それぞれ」という結論になってゆきます。

  

いま持っているBluetoothレシーバー(FiioのBTR5とBTR3K)のうち、HD25とBTR3Kの組み合わせは嫌いではなく、またBTR3Kのほうが小型軽量でもあってHD25のヘッドバンドにはBTR3Kが常設されています。BTR3K使用時のHD25とHD250BTとを比較しますとHD250BTに分がある感じです。これがBTR5に換わると、BTR5のアンプに余裕が出るのかHD25は俄然良い音になります。

とは言うものの、HD250BTはこれ一台この価格でそこそこの音を楽しめるのですから、現代のオーディオ技術は大したものです。

  

音質でひとつだけ気になったのは(まだ確証は無いものの)、HD250BTのドライバーのケーシング由来と思われる音のクセです。ケーシングの肉厚や強度、あるいはケーシング内の吸音やデッドニングをもう少し調整したほうがよさそう。それと右耳側ハウジングを指で叩いた時の内部部品の共鳴音も抑えてほしいところです。

   

5.まとめ

すでにBluetoothヘッドフォンの上級モデルを使われているのでしたらHD250BTを急いで購入する必要は無いと思われます。HD25の個性的な音に惚れ込んでいるユーザーもHD250BTのことはあまり気にしないで大丈夫です。

HD250BTは「とにかくヘッドフォンケーブルに縛られたくない」という人におすすめできるBluetoothオンイヤーヘッドフォンの良質なエントリー機。安価で丈夫そうで軽量。ヘッドバンドの側圧はソフト。

ひごろインイヤーヘッドフォンを常用でたまにはオンイヤーヘッドフォンを楽しみたいかたのサブ用途にも。あるいはオンイヤーを試しに買う最初の1台としても相応しい機種ではないかと思います。

 

6.追記(2021年6月1日)

その後、しばらく使って気が付きました。HD250BTって、いま流行りのLo-Fi musicと親和性が高そうだと。このジャンルの曲はその名称から「音質の悪い音楽」と思われそうですが、実際にはそうではなくて、主に高音域成分で構成されるメロディーラインは音量こそ低いものの非常に繊細な作りになっています。いっぽう中低音域は意識的に音質を下げつつ、アタックはパワーよりも立ち上がり&立ち下がり重視。

こうしたLo-Fi musicの「ハイブリッド」な組み立てがHD250BTのセッティングと非常に合致していて、このジャンルの曲においてその評価はHD25よりも一気に高まります。

もう少し具体的に表現します。HD25ではLo-Fi独自のハイブリッド感をそれほど描き出せずに多少ダンゴ状態気味に聴こえます。これがHD250BTにおいては、高音域は繊細さを再現しつつ、音場広く展開されアンビエント感を確保。中低域はLo-Fiの「ラフだけどスピーディー」な指向が実現しています。

Lo-Fi music はDJ由来の音楽ジャンルのひとつであることから、もしかしたらゼンハイザーはそこまで見通してHD250BTを世に送り出したのかもしれず、気持ちが高まります。

  

※ご注意:

本記事ではHD25およびHD250BTの分解に言及していますが、くれぐれも安易な分解はなさいませんように。いずれのドライバーもケーシング内部では髪の毛よりも細いリード線で繊細に配線がされています。誤ってリード線を切断してしまうと素人の手での修復はまず不可能です。私は以前にHD25の分解でドライバーを1台失っています。

  

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