和田哲哉 -LowPowerStation-

文房具ジャーナリスト /「信頼文具舗」店長 / 和田哲哉のブログです

ゼンハイザーHD250BTの絶妙な仕様設定に興味津々。

昨年の秋頃より情報が公開され始め、ことし1月のCES2021で広く発表されたゼンハイザーのヘッドフォン:「HD250BT」。

日本での発売開始が待たれていた本品。その皮切りは量販店やヘッドフォン専門店からではなく、なんとAmazon。しかも「Amazon.co.jp限定モデル」という意外なプロモーションとなりました。

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SENNHEISER HD250BT パッケージ

  

1.仕様

HD250BTはオンイヤー(=耳乗せ)型の密閉式ヘッドフォン。BTの表記のとおりBluetooth (Ver5.0) を介して音楽プレーヤー側と接続します。コーデックはAAC/aptX/aptX LL/SBCの4種。NC(=ノイズキャンセリング)機能は非搭載。ケーブル接続にも対応していません。Amazonでの初値は¥11,000.(税込)と、思いのほか手ごろなものとなっています。

数年前であればこんなに安価な製品で大丈夫なのかと心配になったはずですが、VRゴーグルの「Okulus Quest2」が3万円台の前半で販売されるいま、ゼンハイザーは適正な価格設定をしたという印象です。

なお、通話やオンラインミーティングが可能なマイクロホン(感度そこそこ良し)は装備。バッテリーの持ちは公称25時間と頼もしい長さになっています。

  

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SENNHEISER HD250BT

  

2.ゼンハイザーHD25とくらべて

ゼンハイザー製品のファンであれば、「HD250BT」と聞けばゼンハイザーの名機:「HD25」のBluetooth版と想像するはずです。写真のとおり何の飾りも無い、シンプルさを通り越して武骨なルックスのヘッドバンド。無塗装樹脂のハウジング。これはまさにHD25と同じデザインアプローチ、ではあります。

  

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ゼンハイザーHD25(ケーブル換装あり)

  

HD25は今から33年前の1988年に登場。高音域と低音域の両側を際立たせた明瞭な音質や、武骨ながらも丈夫な作り、イヤーパッドやケーブルだけでなくヘッドバンドやドライバーユニットまでもパーツ単位で手軽に交換が可能なメンテナンス性の高さもあって、放送局でのモニター or 実況中継用途、あるいはDJ用のモニターヘッドフォンとして活躍の場を広げてきました。

じっさい、私が購入した当時のHD25の箱にはENG(放送)とスタジオモニタリング向けと明記されていました。

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「ENG向け」と明記されたHD25の箱

それがここ十年ほどの間では、iPodのようなデジタル音楽プレーヤーやiPhoneを始めとするスマートフォンの普及と歩調を合わせるかのように一般ユーザーにも急速に人気が高まります。

プロフェッショナル向けとして本来ならばヘッドフォンケーブル経由での使用が当たり前だったのに、Bluetoothが広く普及した現在において、一般ユーザーにとりましてはBluetooth版HD25の登場はひとつの関心事になっていたかもしれません。

私などはBluetooth版の登場を待ちきれず、HD25のケーブルを短く切り、ヘッドバンド上に取り付けたBluetoothレシーバーに直接接続して使用していました。(下記はその最新の記事です)

blog.sprg.jp

  

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HD25にBluetoothレシーバーを直結した例

  

そして昨年の秋、HD25のBluetooth版であることを容易に想起させる型番:「HD250BT」のリークが始まったのです。

繰り返しになりますが、放送局やDJブースでの使用であればBluetooth接続にする必要はほぼ無いはず。プロフェッショナル用途とは無縁の一般ユーザーがHD25のBluetooth版に求めているものは何か、何を実現すれば良いのかについて、ゼンハイザーは相当に検討したことでしょう。

果たしてHD250BTで表現されたのは「HD25風の音質」と「比較的荒い使い方にも耐えそうな武骨な外観仕上げ」のみで、それ以外のHD25らしさはスパッと省かれました。

たとえば、激しい動きや外付けマイクロホンの追加でも安定した装着が期待できる開閉2重式のヘッドバンドや、サウンドチェックが可能な左側ドライバーのはね上げ機構などはHD250BTには採用されませんでした。イヤーパッドの素材選定や作りもHD25と比べて非常に簡易的なものになっています。

こうしたHD250BTの仕様設定について、私としてはガッカリではありましたが、HD25「風」の音づくりは維持され、簡素な仕様で気軽に使えるし、電池の持ちに不満は無い。なにより安い。ゼンハイザーは上手いあんばいをしてきたなと言わざるをえません。

とにかく、本品を実際に手にして「ああ、そう来たか!」と心の中でつぶやいてしまいました。

  

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操作ボタンとUSB-Cジャック

3.使い心地

操作ボタンは「+」と「・」と「−」の3つ。これで、電源ON/OFF、ペアリング、再生/停止、曲送り/曲戻し、バッテリーの残量確認までが出来ます。充電ジャックはUSB-C。充電状況を表示するLEDも備わります。

手にして最初に感じるのは軽さ(実測130グラム)です。首に掛けた時の収まりの良さも美点です。持ち歩きは全く苦になりません。折畳み機構は無いものの、そのままでも十分にコンパクトで、バッグに気軽に放り込むことができます。

これでカラーバリエーションでも登場しましたら、元となったHD25の事など全く関係無く、オンイヤー型ヘッドフォンのヒットモデルになる気がします。

  

4.音質

お待たせしました音質についてです。前述のとおりHD250BTはHD25の流れを汲む「高音域と低音域とが際立った」明瞭快活な音作りになっています。それゆえ、街の雑音の中でも音楽の輪郭をちゃんと捉えることができて、NC無しでも結構イケてしまいます。しかし、じっくり聴いてゆくとHD25との音作りの違いを確認できます。

  

この先の話を分かりやすくするために、ここで一度それぞれのヘッドフォンのイヤーパッドを外し、ドライバー部分を見てみましょう。

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HD25のドライバー部分

  

先にHD25のドライバー部から。最新のヘッドフォンとは違う風景に気がつきます。ドライバーは不織布みたいなものに隠されていて見えません。ドライバーの直径は推測で33mm程度と比較的小さめ。こんなに小さいのに、あの弾む低音が出るのには少々驚きます。

いまいちど写真を見ますと、ドライバーの周囲に白い大きなフェルトで埋まった広い開口部分があります。もしかしたら、これはドライバーの背面音を前側に誘導する部分かもしれません。フェルトを使って背面音から高音域を減衰させ、正面音に背面音の低音域を加える手法ではないかと思います。

  

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HD250BTのドライバー部分

こんどはHD250BTのイヤーパッドを外したところ。ドライバーの直径はこちらも実測33mm程度。振動板が正面から丸見えで、HD25にあったドライバー周囲の穴はだいぶ少なくなっています。

HD250BTでは、ドライバー正面からの直接音が主役になっているのかもしれません。考えれば右耳側ドライバーの奥にはBluetooth回路やヘッドフォンアンプ、バッテリー等が控えているはずで、ドライバー背面側の空間を左右で均等には利用しづらいという事情もありそうです。

  

イヤーパッドの形状にも大きな違いがあります。

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イヤーパッドと開口部の違い

HD25のイヤーパッドは、内部に空間があってドライバーの直接音とドライバー周囲からの背面音(?)を広く受けとめ、それが開口部に向かって徐々に絞られてゆく形状です。

HD250BTのイヤーパッドは、ドライバーの直径よりも大きい位の開口部となっていて、ドライバー側の音を絞らずに耳側に伝える構造です。

  

こうした一連の構造や各部形状の違いから、「HD250は音場が広くライブ感にあふれ」、いっぽう「HD25の音場の狭さがむしろ音楽を聴き込めるタイトな感じ」であり、両者の「聴こえ」には音質以前に相当な差異が存在します。

  

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比較用のHD25(改造モデル)

今回、HD250BTとの比較用にはHD25の改造モデルを使いました。このBluetoothレシーバー部分にFiioのBTR5またはBTR3Kを接続。回路はバランス接続にしていますし、スペック的に正しい比較評価が出来ないのは承知です。私がひごろ聴き慣れた音との比較として読み進めてください。

  

当初から述べているとおりHD250DTの音は快活で「くぐもる」ところは一切無く、なのでどの曲の高音域も伸びやかに聴くことができます。低音はHD25よりもスピーディーな印象で量感も豊かで、いや豊かを通り越している位で、このあたりはいまどきのヘッドフォンらしいセッティングです。そうした低音から耳を守るために音量を絞っても、元々高音域がしっかりと出ているので音楽の存在感は失われず、街なかでの聴取に困ることはあまりありません。

かと言って相対的に中音域が不足するような「中抜け」もそれほど感じず、ボーカルの音域にも顕著な不足はありません。

おそらく、動きの良いドライバー+専用に設計&セッティングされたヘッドフォンアンプや音声信号処理回路のおかげなのでしょう。

  

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ゼンハイザー HD25(BT改)とHD250BT


  

こうしたHD250BTの、現代的とも言えるスピーディーで抜けの良い音を聴いてしまうと、HD25の音作りが少し古めかしくも感じてしまうのですが、エレキベースの「弦のバネ感」を思わせる「ズム」(?)といった言葉に表現しづらい音や、耳穴の中心に注ぎ込まれる「ブン」と来る音圧などはHD25ならではのもの。そこにBluetoothレシーバーのグレードを上げてゆけば当然、解像度がアップして聴き込める音になってゆくわけで、当初予想された通り「突き詰めれば両者それぞれ」という結論になってゆきます。

それにしてもHD250BTはこの価格でそこそこの音を楽しめるのですから、現代のオーディオ技術は大したものです。

  

ちなみに、いま持っているBluetoothレシーバー(FiioのBTR5とBTR3K)のうち、HD25とBTR3Kの組み合わせは嫌いではなく、またBTR3Kのほうが小型軽量でもあってHD25のヘッドバンドにはBTR3Kが常設されています。

しかし、BTR3K使用時のHD25とHD250BTとを比較しますとHD250BTに分がある感じです。これがBTR5に換わると、BTR5のアンプに余裕が出るのかHD25は俄然良い音になります。

ひとつだけ気になったのは(まだ確証は無いものの)、HD250BTのドライバーのハウジング由来と思われる音のクセです。ハウジングの肉厚や強度、あるいはハウジング内の吸音をもう少し調整したほうがよさそう。それと右耳側ハウジングを指で叩いた時の内部部品の共鳴音も抑えてほしいところです。

   

5.まとめ

すでにBluetoothヘッドフォンの上級モデルを使われているのでしたら購入の必要は無いと思われます。安価で丈夫そうで軽量。ヘッドバンドの側圧はソフト。たとえば、ひごろインイヤーヘッドフォンを常用で、たまにはオンイヤーヘッドフォンを楽しみたいかたのサブ用途に、あるいはオンイヤーを試しに買う最初の1台としてならば相応しい機種ではないかと思います。

  

  

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