和田哲哉 -LowPowerStation-

文房具ジャーナリスト・ステーショナリープログラム運営 / 和田哲哉のブログです

Bluetoothレシーバー、BTR3とBTR5を比べてみました

前回の記事のとおり、FiioのBluetoothレシーバー「BTR3」を使い初めて15ヶ月目となる今年4月、その上位機種「BTR5」を購入しました。すでに多くのかたがBTR5のレビューを公開されていますが、今回も私なりに記してみたいと思います。

  

f:id:wabysprg:20200506024324j:plain

Fiio BTR5

(つい先日、日本未発売ながらBTR3のエンハンスドモデルとして「BTR3K」がFiioより発表されています。新しいBTR3Kの仕様も気になります。BTR3とBTR3Kのおおまかな違いについてはのちほど少し言及します)

  

f:id:wabysprg:20200506024436j:plain

(左から) BTR3 と BTR5

1.Bluetoothレシーバーとは

オーディオ関連製品に興味を持たれていないかたも多いかと思いますので簡単にご説明します。スマートフォンで音楽を聴く際、これまではヘッドフォンのケーブルを直接スマートフォンにつないで聴くのが普通でした。しかし現行のiPhoneや一部のスマートフォンにはヘッドフォンを挿すジャック(穴)が無くなっています。

そのような機種ではスマートフォンとヘッドフォンとの間をBluetoothという無線通信規格で接続し、音楽を電波に飛ばして聴くことになります。

このとき、ヘッドフォン側にBluetooth送受回路を備えた「Bluetoothヘッドフォン」を使えばヘッドフォンとスマートフォンのふたつを用意するだけで済みますが、Bluetooth回路を備えていないただのヘッドフォンでは、今回取り上げるBTR3やBTR5ような「Bluetoothレシーバー」を介してスマートフォンと接続します。

f:id:wabysprg:20200504062832j:plain

「 Bluetooth レシーバー」の位置づけ

ひとつ余計な装置が増えるので面倒に思われるかもしれません。けれども最近出はじめた高性能なBluetoothレシーバーを使えば、長いオーディオの歴史の中で開発されてきたさまざまなヘッドフォンたちをワイヤレスで、しかも高音質で楽しむことが可能になります。

  

  
 2.Bluetoothレシーバーの内部構成

BTR3とBTR5を比べるのに先立って、Bluetoothレシーバーの中身を少しお話ししなければなりません。

Fiio公式サイトの情報によるとBluetoothレシーバーの中は、スマートフォンとのBluetooth無線通信をつかさどる「Bluetooth IC」と、デジタル音楽信号の処理を担う「FPGA(=機種毎に専用設計された集積回路)」、デジタル信号をアナログ信号に変換しヘッドフォンのドライバー(=スピーカー部)を駆動するアンプ(=信号増幅回路)も備えた「DAC+アンプ統合型チップ」、主に3つのパートで構成されているようです。

荒っぽく言えば、これらパートの組み合わせの違いがBluetoothレシーバーの性能や機能の差、ひいては価格の差となります。現在、BTR3の市場価格は1万円前後、BTR5は1万5千円位です。

f:id:wabysprg:20200502003052j:plain

BTR5の内部構成(Fiio公式サイトより)

上の図はFiio公式サイトに掲載されているBTR5の内部構成です。 左上の「CSR8675」がBTR5の「Bluetooth IC」になります。また右手側のES921BPがBTR5の「DAC+アンプ統合型チップ」になります。BTR5ではヘッドフォンを駆動させるための回路を一般的な「アンバランス系統(※1)」だけでなく「バランス系統」の計2系統持っているため、ES921BPを2基備えています。

(※1:Fiioではアンバランス接続を「シングルエンド接続」と呼んでいます)

f:id:wabysprg:20200502010841j:plain

各機種の部品構成

上の表ではBTR3とBTR5、ついでにBTR3Kの部品構成の違いを記しています。3機種とも「Bluetooth IC」は同じ部品を搭載。いっぽう「DAC+アンプ統合型チップ」は、型番や搭載個数に違いが見られます。

(この表には出ていませんが、BTR3とBTR3Kにはさきほどご紹介した「FPGA」は搭載していないようです。Fiio公式サイトの BTR3K内部構成図 では「Bluetooth IC」と「DAC+アンプ統合型チップ」とが対向して直接つながっている様子が描かれていました)

「DAC+アンプ統合型チップ」の種類と周辺回路の違いはヘッドフォンのドライバーを駆動する能力の差に直結するので見逃せません。Bluetoothレシーバーのカタログに記載されているアンプ(=ヘッドフォン・アンプ)の仕様を見てみますと、その出力値はBTR3が25mW+25mWであるのに対し、BTR5は80mW+80mW(アンバランス)/240mW+240mW(バランス)と大きな違いを見せています。ざっくり言えば、BTR5のほうがヘッドフォンをより大きなパワーで駆動できるということです。

  

3.比較に使うヘッドフォン

手元にあるヘッドフォンのうち3機種で聴いてみました。まずはすっかり有名になった「ゼンハイザー HD25(オヤイデ電気のケーブルに換装済)」。ふたつめはケーブルを換装してバランス化した「ベイヤーダイナミック Aventho Wired」です。Aventho Wiredは変換ケーブルを使ってアンバランス系統としても試聴できます。みっつめはインイヤータイプとして昨年入手した「ゼンハイザー IE40PRO」です。

HD25とAventhoWiredはケーブルを換装してしまっているので、絶対的な評価はできません。ですのでBTR3/BTR5の傾向の違いを読み取ってください。またBTR5はイコライザーやデジタル変換のアルゴリズム等を細かに切り替えできますが、今回は全てデフォルト設定での試聴とします。

 

4.試聴の前に

試聴に入る前にお伝えしたいのは、これまで使ってきたBTR3はとても良い機種だということです。なにしろ15ヶ月もの間さしたる不満無く使ってこられたのですから。BTR3のおかげでヘッドフォンへの興味がますます湧いてきましたし、昨年の私にとってのベストバイはBTR3だったくらいですから。

BTR3についての購入直後のレビューについては当時の記事をご覧ください。当時はAUKEYの安価なBluetoothレシーバーと比較していたため「HD25を接続した際にも高音域から低音域までしっかりと聴こえます。」などと、手ばなしで褒めているところが面白いです。

  

blog.sprg.jp

  

その後長いあいだBTR3を使って不満は無かったものの、ちかごろでは「Bluetoothを介しているからここまでの音質なのかな?」とか「これだけ小さいからマッチングするヘッドフォンは限られているかも?」といった、小さいBluetoothレシーバーゆえの限界がそこにあるのかもという前提でBTR3に接していたところは否定できません。

昨年の秋ごろから情報が出回り始めたBTR5への評価を見るに「まだまだ上があるのか」と期待が高まっていた感じです。

  

5.試聴(ゼンハイザー HD25)

ゼンハイザーHD25シリーズは主に放送局等でのフィールド向けモニターとして1980年代に開発された古参モデル。その快活な音や、片方のドライバーが回転はね上げ式になっていて生の音を同時にモニターできる仕様などでDJ用ヘッドフォンとして人気を博し、近年では私たち一般ユーザーからも多くの支持を得ているオンイヤー型の密閉式ヘッドフォンです。

HD25の音質は「ドンシャリ系ヘッドフォン」の例えによく引き出されるものです。音源の特徴を見抜けるほどに伸びる高域と、ボンボンと前に出る低域が特徴になっています。(しかし最近流行の過剰気味な重低音強調ヘッドフォンとは違う、弾む低音です)

f:id:wabysprg:20200504063301j:plain

sennheiser HD25 (改)

BTR3に接続します。高域はほんの少しマイルドになり中音~低音域は力強さが増したように感じられ、全体として心持ち太い音になります。BTR3のヘッドフォンアンプによってスマートフォンに直接接続した音よりも厚みが増す印象です。

HD25特有のクセ(過剰気味のドンシャリ)は若干抑えられ、人によっては好感かもしれません。個人的にはHD25とBTR3の組み合わせは合っていると思います。曲の録音の良否を追い込んで聴くわけではない場合、あるいは環境音の大きい屋外での使用であれば今後も使用に差し支え無いという感じです。

HD25はドンシャリの代表のように言われつつも音の解像度は高く、聴き込む用途にも応えてくれるのですが、BTR3のヘッドフォンアンプはその解像度には追いついていない感じはあります。音を少し丸めると言うか四捨五入して聴こえるきらいはあります。

そのほか少し気になったのは、曲から大きな低域アタックが出た際にあらわになる音の若干の出詰まり感、あとはボーカルの荒さです。いずれもHD25のドライバーをコントロールし切れていない瞬間があるのかな?と思いました。

BTR5(アンバランス接続)に差し替えます。なかなかの違いに驚きます。まず情報量の差。BTR3の時には曲から4~5の要素を聴き取れているとすればBTR5では体感上その3割増しの要素を認知できます。多くの楽器が潰れずに揃い、各音の抑揚と表情が明確に分かり、強い音の影に隠れていた繊細な音が見えてきます。さきほど指摘した大きな低域アタックが詰まり無くスピーディーに飛び出してきます。それと音像がBTR3の時よりも少し大きくなります。おそらく左右の信号分離が良いとか、エコー成分を知覚させる繊細な音が聴こえるなどの効果だと思います。アンバランスでこの差ですから、バランス化したらどうなるのでしょう。

なお、そういった差を明確に知覚できるのはHD25だからというところもあるかもしれません。数千円台の機種ではBTR3とBTR5との差が分かるかどうか。そのあたり、HD25はモニターヘッドフォンの面目躍如といったところでしょう。

繰り返しますが屋外での使用であればBTR3+HD25はなんら問題無く使えます。少し太くなる音もいま風で悪くありません。BTR3は小型のためHD25のヘッドバンドへの固定も容易で、今後も良き相棒です。

    

6.試聴(ベイヤーダイナミック Aventho Wired)

ベイヤーダイナミックはゼンハイザーと同じドイツのメーカー。ゼンハイザーが幅広い価格帯で数多くのラインアップを展開し、おそらく生産量も膨大な「総合ヘッドフォンメーカー」の印象であるのに対し、ベイヤーは加工が困難な金属部品を多用したりドイツでの生産のみにするなど、どちらかと言うと職人技的な製品をウリにしている、少しマニアックなイメージの会社です。Aventho Wiredは、ゼンハイザーHD25の対抗モデルと言われたDT1350のエンハンスドモデルの位置づけになると思います。

f:id:wabysprg:20200504063338j:plain

beyerdynamic Aventho Wired (改)

BTR3につなげます。Aventho Wiredは、その音質がヘッドフォンアンプの駆動能力に左右されやすいという噂があるなか、BTR3はちゃんと振る舞っていると思います。前述のとおりBTR3は高域を少し抑えるので、もともと高域がHD25ほどは伸びないAventho Wiredでは少しまるっとした音になり、聴きたい音楽のジャンルが絞られます。具体的に言うとYMOとか電子音楽系はHD25に譲りたい感じ。ボーカル中心の曲やジャズであれば気になりません。

BTR5+バランス接続にします。まず音像がパッと広がることを確実に認知できます。左右の信号分離、BTR5のSN比の良さなどが功を奏した結果でしょう。BTR3ほどには高域を抑えないと言うか聴こえる情報量が多く、弱音成分&高域成分も豊かで、Aventho Wired であっても曲のジャンルが絞られません。低音域はBTR3よりは強調されないですが高域と同様に情報量の多さがあるため、BTR3では「ボーン」という単純なアタックだと思っていた音に「ボウウーン」という細かい抑揚が存在していたなど、BTR5になっての音の発見を楽しめます。

もうひとつの驚きはこれがBluetooth接続だと言うことです。Bluetoothと聞いただけで眉をひそめるオーディオファンの気持ちも理解できますが、BTR5については忌避せず試聴されたほうが良いと思います。

いちおうBTR5+アンバランスも試します。ひとことで言うとBTR5+バランスで感じた「良さ」のすべてを均等に少しだけレベルダウンさせた印象になります。もちろんBTR3からBTR5(アンバランス)にした時でも「これはイイ!」と思ったものの、一度BTR5+バランスを知ってしまうとそれにはかなわないので、ヘッドフォンの銘柄に関わらず可能な限りバランス接続での使用をおすすめしたい気持ちです。なお高音域がスポイルされず曲のジャンルを選ばない点ではバランス接続時と同じですので、Aventho Wiredであればバランス/アンバランスに関わらずBTR5がベストマッチだと思います。

  

7.試聴(ゼンハイザー IE40PRO)

HD25と同じドイツ・ゼンハイザー社の、こちらはインイヤータイプのヘッドフォン。型式にプロと付記されたシリーズ(IE40PRO,IE400PRO,IE500PRO)のエントリーモデルとなります。

ゼンハイザーのプロモーションビデオを観ると、このPROシリーズはミュージシャンがスタジオやステージで演奏する際のモニター用途を想定した製品のようです。そのためかドラムのハイハットやクリックが追いやすいような高音域を強調したセッティング。HD25の「ドンシャリ」に対し、IE40PROは大げさに言えば「シャリシャリ」な印象があります。

f:id:wabysprg:20200504063616j:plain

sennheiser IE40PRO

まずはBTR3に接続。前述のとおりBTR3はほんの少し高音域を抑えている傾向があり、IE40PROの行き過ぎたシャリシャリ感を整えてくれるようです。少なくとも環境音の多い屋外であれば、このふたつはわりとベストマッチではないか?と思うほど長時間聴いていても飽きは来ません。ラフな録音のアルバムを聴くぶんには充分。BTR3の少し太い中~低音域もIE40PROの音楽性を高めてくれます。「モニター(=サウンドチェック)」の目的から外れ、単に音楽を楽しむのであればそれほど文句は出ない組み合わせに感じます。

次にBTR5です。BTR3でそれほど文句は無いと言いながらBTR5にした瞬間、「やっぱりこれは違う」を実感します。ハイハットはより細やかに、ベースは弾み、奥で聴こえるコンゴの残響もつややか。曲に録音されているあれこれが粒立って、際立って聴こえてきます。Bluetooth経由でありながらIE40PRO本来のサウンドチェックの能力を実現してくれます。「BTR5だから聴こえる音」を確かめたくてプレイヤー(=スマートフォン)に収録されている曲全てをこれで聴き直したくなる感じです。

ただ、BTR5のおかげでIE40PROの特性が発揮され、伸び過ぎる高音域が多少耳に障るところもあります。気になる場合はユーザーが細かく調整できるイコライザー機能をいじることになるかもしれません。

インイヤータイプを愛用されている人には申し訳ないのですが、私はインイヤータイプにおいてBTR3→BTR5で大きな差が出ないと思っていました。ところが、耳に装着したとたんの違いでしたので驚きが大きかったです。「サイズや価格からBTR3でも充分楽しめる。でもBTR5ならもっと違うのを聴かせてくれるよ。」がIE40PROでの結果です。…そうなりますとIE40PROのバランス化も試してみたいところです。

  

f:id:wabysprg:20200507064826j:plain

バランスとアンバランス、ふたつの出力系統を備えるBTR5

  

8.そのほか

ヘッドフォンアンプの出力が大きいBTR5であれば「ゴクウホーン」をあと少し豊かな音量で鳴らすことができます。BTR5購入のおかげでこんなところにもメリットがと嬉しくなりました。

f:id:wabysprg:20200509075429j:plain

BTR5は「トキオ ゴクウホーン」とベストマッチ

  

9.まとめ

Fiioはこれまで、有線式のヘッドフォンアンプを数多く開発し多くのユーザーを獲得してきました。いっぽうオーディオマニアからはとかく嫌われがちなBluetoothレシーバーですが、Fiioが本気を出すとここまで出来る、いやもっと凄いのが登場するかもしれないと期待をさせてくれたのが今回のBTR5です。 なにしろ私のような保守的な者でさえヘッドフォンケーブルのバランス化に目覚めてしまったのですから。

FiioのBluetoothレシーバーはこのBTR5あたりをゴールにするのか、それともHi-Fiモデルとしてのスタートラインになるのか、今後の展開も楽しみです。

  

(ご注意:以降はAmazonのアフィリエイトリンクです) 

FiiO BTR5 (FIO-BTR5-B)Bluetoothアンプ

FiiO BTR5 (FIO-BTR5-B)Bluetoothアンプ

  • メディア: エレクトロニクス
 

   

・ -LowPowerStationについて-