和田哲哉 -LowPowerStation-

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Bluetoothレシーバー、BTR3,BTR3K,BTR5を比べてみました

※ 8月10日に全面加筆修正を行いました。

     

Fiio(フィーオ)のBluetoothレシーバー、BTR3,BTR3K,BTR5の3機種を実際に比較しました。

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(手前から)BTR5,BTR3K,BTR3

  

前回の記事のとおり、FiioのBluetoothレシーバー「BTR3」を使い初めて15ヶ月目となる今年4月、上位機種「BTR5」を購入しました。最初はこれら2機種についての試聴を行い、結果を本ページに5月に公開しました。

しかし、ちょうど結果を公開した時期にBTR3の後継モデルと言える「BTR3K」が登場したため、7月末にこれも購入し、3機種の比較結果の記事として本ページを8月に全面更新しました。

  

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ヘッドフォン(Aventho Wired)と BTR3K

  

1.Bluetoothレシーバーとは

オーディオ関連製品に興味を持たれていないかたも多いかと思いますので簡単にご説明します。スマートフォンで音楽を聴く際、これまではヘッドフォンのケーブルを直接スマートフォンにつないで聴くのが普通でした。しかし現行のiPhoneや一部のスマートフォンにはヘッドフォンを挿すジャック(穴)が無くなっています。

そのような機種ではスマートフォンとヘッドフォンとの間をBluetoothという無線通信規格で接続し、音楽を電波に飛ばして聴くことになります。

このとき、ヘッドフォン側にBluetooth送受回路を備えた「Bluetoothヘッドフォン」を使えばヘッドフォンとスマートフォンのふたつを用意するだけで済みますが、Bluetooth回路を備えていないただのヘッドフォンでは、今回取り上げるような「Bluetoothレシーバー」を介してスマートフォンと接続します。

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「 Bluetooth レシーバー」の位置づけ

ひとつ余計な装置が増えるので面倒に思われるかもしれません。けれども最近出はじめた高性能なBluetoothレシーバーを使えば、レシーバー内部に備わった良質なヘッドホンアンプによって、長いオーディオの歴史の中で開発されてきたさまざまなヘッドフォンたちをワイヤレスで、しかも高音質で楽しむことが可能になります。

  

  
 2.Bluetoothレシーバーの内部構成

今回の比較に先立って、Bluetoothレシーバーの中身を少しお話ししなければなりません。

Fiio公式サイトの情報によるとBluetoothレシーバーの中は、スマートフォンとのBluetooth無線通信をつかさどる「Bluetooth IC」と、デジタル音楽信号の処理を担う「FPGA(=機種毎に専用設計された集積回路)」、デジタル信号をアナログ信号に変換しヘッドフォンのドライバー(=スピーカー部)を駆動するアンプ(=信号増幅回路)も備えた「DAC+アンプ統合型チップ」、主に3つのパートで構成されているようです。

荒っぽく言えば、これらパートの組み合わせの違いがBluetoothレシーバーの性能や機能の差、ひいては価格の差となります。現在、BTR3Kの市場価格は1万1千円前後、BTR5は1万7千円位です。

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BTR5の内部構成(Fiio公式サイトより)

上の図はFiio公式サイトに掲載されているBTR5の内部構成です。 左上の「CSR8675」がBTR5の「Bluetooth IC」になります。また右手側のES921BPがBTR5の「DAC+アンプ統合型チップ」になります。BTR3KとBTR5ではヘッドフォンを駆動させるための回路を、一般的な「アンバランス系統(※1)」だけでなく「バランス系統」の計2系統持っているため、ES921BPを2基備えています。

(※1:Fiioではアンバランス接続を「シングルエンド接続」と呼んでいます)

  

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3機種の搭載部品と出力系統

  

上の表ではBTRシリーズ各機種の部品構成の違いを記しています。3機種とも「Bluetooth IC」は同じ部品を搭載。いっぽう「DAC+アンプ統合型チップ」は、型番や搭載個数に違いが見られます。

(この表には出ていませんが、BTR3とBTR3Kにはさきほどご紹介した「FPGA」は搭載していないようです。Fiio公式サイトの BTR3K内部構成図 では「Bluetooth IC」と「DAC+アンプ統合型チップ」とが対向して直接つながっている様子が描かれていました)

  

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(左から)BTR3 / BTR3K / BTR5

  

「DAC+アンプ統合型チップ」の種類と周辺回路の違いはヘッドフォンのドライバーを駆動する能力の差に直結するので見逃せません。Bluetoothレシーバーのカタログに記載されているアンプ(=ヘッドフォン・アンプ)の仕様を見てみますと、その出力値はBTR3Kが25mW+25mW(アンバランス)/78mW+78mW(バランス)であるのに対し、BTR5は80mW+80mW(アンバランス)/240mW+240mW(バランス)と大きな違いを見せています。ざっくり言えば、BTR5のほうがヘッドフォンをより大きなパワーで駆動できるということです。

  

3.比較に使うヘッドフォン

手元にあるヘッドフォンのうち次の3つのモデルで聴いてみました。まずはインイヤータイプのモニターヘッドフォンとして人気の「ゼンハイザー IE40PRO」を用い、BTR全機種が備えているアンバランス系統のヘッドフォン出力を試聴します。ふたつめはモニター&DJ向けヘッドフォンのレジェンド(?)「ゼンハイザー HD25(オヤイデ電気のケーブルに換装済)」で、これもまたBTR全機種のアンバランス系統を比較します。みっつめはサードパーティー製のケーブルを用意した「ベイヤーダイナミック Aventho Wired」で、BTR全機種のアンバランス系統およびBTR3KとBTR5に備わっているバランス系統を確認します。

   

HD25とAventhoWiredはケーブルをサードパーティー製のものに換装してしまっているので、絶対的な評価はできません。ですのでBTRシリーズ各モデルの傾向の違いを読み取ってください。またBTR5はイコライザーやデジタル変換のアルゴリズム等を細かに切り替えできますが、今回は全てデフォルト設定での試聴とします。

  

4.試聴の前に

試聴に入る前にお伝えしたいのは、これまで使ってきたBTR3はとても良い機種だということです。なにしろ15ヶ月もの間さしたる不満無く使ってきたのですから。BTR3のおかげでヘッドフォンへの興味がますます湧いてきましたし、昨年の私にとってのベストバイはBTR3だったくらいですから。

BTR3についての購入直後のレビューについては当時の記事をご覧ください。当時はAUKEYの安価なBluetoothレシーバーと比較していたため「HD25を接続した際にも高音域から低音域までしっかりと聴こえます。」などと、手ばなしで褒めているところが面白いです。

  

blog.sprg.jp

  

その後長いあいだBTR3を使って不満は無かったものの、ちかごろでは「Bluetoothを介しているからここまでの音質なのかな?」とか「これだけ本体が小さいからマッチングするヘッドフォンは限られているかも?」といった、多少の疑いを持ってBTR3に接していたのは否定できません。その後に登場したBTR5についての各所からの評価を見て「まだまだ上があるのか」と期待も高まっていました。

いっぽう今年登場したBTR3Kについては、BTR3にバランス系統の出力が追加されただけなのか、それとも新たな回路部品によって音質もブラッシュアップされたのか、おそるおそる購入して今回の比較に臨みました。

  

5.試聴(ゼンハイザー IE40PRO

ドイツ・ゼンハイザー社のインイヤータイプのヘッドフォン。型式にプロと付記されたシリーズ(IE40PRO,IE400PRO,IE500PRO)のうちのエントリーモデルとなります。インピーダンスは20Ω。

ゼンハイザーのIExxPROシリーズのプロモーションビデオを観ますと、このシリーズはミュージシャンがスタジオやステージで演奏する際のモニター用途を想定した製品のようです。そのためかドラムのハイハットやスネアドラム、あるいはクリックが追いやすいような高音域をよく確認できるセッティング。ひとによってはそのシャリシャリした高域は気になるかもしれません。いっぽうの低域はブーストは掛けておらず、引き締まった感じです。

本記事の初期公開時はHD25を試聴のメインに据えていたのですが、HD25はハウジング(ヘッドフォンのドライバーを収めるケース部分)による低域の修飾が感じられることと、私がサードパーティー製のケーブルを使っていることから、8月の記事修正時からIE40PROを最初の試聴に据えてみました。

  

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sennheiser IE40PRO

  

まずはBTR3に接続。BTR3は高音、それもかなり高いほうを少し抑えている音作りに感じています。そのことがIE40PROのシャリシャリ感を適度に整えてくれるようです。少なくとも環境音の多い屋外であれば、このふたつはわりとベストマッチではないか?と思うほど長時間聴いていても耳疲れはありません。BTR3の少し太い中~低音域はIE40PROをストイックなモニター用途よりも音楽を楽しむ方向に振ってくれます。ただ特定の曲で量感の大きい低音アタックがあった時に少し全体音の詰まり?を感じました。屋外でラフに聴くぶんには充分。「モニター(=サウンドチェック)」の目的から外れ、単に音楽を楽しむのであればBTR3Kが出た現在も文句は出ない組み合わせに感じます。

  

BTR3Kにします。聴いた瞬間BTR3で抑えられていた高域が開放されていることに気づきます。IE40PRO本来のシャリシャリ感がよく出ます。と言っても、おおむね不快なものではなく音の緻密さの向上につながる良化した高域です。同時にその効果か(=高域の残響音を認知しやすくなったためか)音場が対BTR3比で少し拡がっています。

(ただし注意点があります。ここで言う高域とは「超高域まで聴こえている」という意味ではなく「一定の領域の高域が少し強調されて聴こえているらしい」というものです。このあと登場するBTR5は一見BTR3Kよりも落ち着いて聴こえるものの、実際に超高域までのびやかに表現できているのはBTR5ではないかいうことです)

この高域の聴こえのおかげで音源の録音チェックなどが可能になります。ピアノのペダル操作由来の周辺音まで明確に捕捉できます。

まだアンバランス接続だからと油断をしていましたが、BTR3Kは、各楽器毎の立体感や分離の良さを感じます。楽器ひとつひとつが快活に手前に出て聴こえます。これは明確なBTR3Kの個性です。どうしてこうなるのか理由が分かりません。意識的にデジタル処理を掛けているの?と思ってしまうほどです。おかげでウッドベースもエレキベースもわざわざ耳で「探しに行く」ことなく認知できて多くの曲の音楽性が高まっています。

反対に低域(超低域)は対BTR5比で適度に見切られています。それを良しとするか否かは人それぞれですが、見切ったおかげで耳への負担が減って中音域が認知しやすくなる効果もあると思います。BTR3で感じた低音アタック時の全体音の詰まりはBTR3Kでは感じませんでした。BTR3Kの音を長時間聴いて耳疲れがするかは未確認ながら、初見ではアンバランス接続の確認だけでもBTR3とBTR3Kとの差はわりと明らかに感じました。

  

BTR3→BTR3Kと来てBTR5です。これも聴き始めから他の2モデルとの違いを認知できます。ひと言で表現するならば「(身も蓋もない表現ですが)良い音」。それは広い音場とか全体の安定度とか各パートの出しゃばらない感じとかのトータルで作られるものです。ハイハットは細やかに、ウッドベースはほどよく弾み、奥で聴こえるコンゴの残響もつややか。曲に録音されているあれこれが丁寧に粒が揃って聴こえてきます。

BTR3Kと較べ初見の印象として高域は若干控え目に感じます。しかし実際にはBTR5のほうが超のつく高域まで聴こえているようです。BTR3Kのような、少し押しの強いきらびやかさは無いものの、(曲のジャンルを問わず)音楽を冷静に楽しむのにはBTR5に軍配が上がりそうです。

低域はBTR3Kよりもしっかりと認知できます。これはもう音源次第で、BTR5のおかげでめざす低音が楽しめるものもありますしBTR3Kのほどよく低音を見切っているセッティングのほうが曲によってはベタッとせず軽快・快適に聴こえる時もあります。

  

IE40PROだけを使う前提でまとめると、環境ノイズの多い屋外で使う分にはBTR3を使い続けていても決して不幸なことではない。でもBTR3Kを買い増ししてもそれは損ではなくて新しい体験が待っている。IE40PROの音の傾向をストレートに楽しみたいのであればBTR3KもしくはBTR5。BTR3KとBTR5との比較は低域を見切ったBTR3KのほうがIE40PROとのマッチングという観点から優位かなと。それとまだ上手く説明できませんが屋外で楽しむ際の音楽性でBTR3K、広い意味での良い音でBTR5と、それぞれを区別したい感じです。

BTR3シリーズはBTR5よりサイズが小さいのも大事なポイントです。アンバランス接続でのIE40PROについて、BTR3KとBTR5のどちらかひとつだけと言われたらBTR3Kかな。

  

6.試聴(ゼンハイザー HD25

ゼンハイザーHD25シリーズは主に放送局等でのフィールド向けモニターとして1980年代に開発された古参モデル。その快活な音や、片方のドライバーが回転はね上げ式になっていて生の音を同時にモニターできる仕様などでDJ用ヘッドフォンとして人気を博し、近年では私たち一般ユーザーからも多くの支持を得ているオンイヤー型の密閉式ヘッドフォンです。インピーダンスは70Ω。

HD25の音質は「ドンシャリ系ヘッドフォン」の例えによく引き出されるものです。音源の特徴を見抜けるほどに伸びる高域と、ボンボンと前に出る低域が特徴になっています。(しかし最近流行の過剰気味な重低音強調ヘッドフォンとは違う、弾む低音です)

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sennheiser HD25 (改)

BTR3に接続します。高域はほんの少しマイルドになり中音~低音域は力強さが増したように感じられ、全体として心持ち太い音になります。スマートフォンに直接ケーブルで接続した音よりも厚みが増す印象です。

HD25特有のクセ(過剰気味のドンシャリ)は若干抑えられ、人によっては好感かもしれません。個人的にはHD25とBTR3の組み合わせは合っていると思います。曲の録音の良否を追い込んで聴くわけではない場合、あるいは環境音の大きい屋外での使用であれば今後も使用に差し支え無いという感じです。

HD25はドンシャリの代表のように言われつつも音の解像度は高く、聴き込む用途にも応えてくれるのですが、BTR3のヘッドフォンアンプはその解像度には追いついていない感じはあります。音を少し丸めると言うか四捨五入して聴こえるきらいはあります。

そのほか少し気になったのは、曲から大きな低域アタックが出た際にあらわになる音の若干の出詰まり感、あとはボーカルの荒さです。いずれもHD25のドライバーをコントロールし切れていない瞬間があるのかな?と思いました。

  

BTR3K(アンバランス接続)につなぎます。IE40PROの時と同様に高域が伸び、HD25らしさが出てきます。HD25については高域はBTR3よりもBTR3Kのほうが有り難みがあります。また楽器の各パートの立体感と言いますか分離も増しますがIR40PROの時ほどの感激はありません。低域はHD25に関してはもう少し有ってほしい気も。ただ低めの中音域がしっかりとしていて、エレキベースの(パワー成分ではない)メロディーラインが明瞭かつ弾むように聴こえ、グルーブ感高めで楽しく聴くことができます。BTR3とBTR3Kとの比較なら、まよわずBTR3Kを選びたい気持ちです。

  

BTR5(アンバランス接続)です。BTR3Kとの差は明瞭です。まず音場が大きくなります。同時に楽器それぞれの分離がしっかりとしていて、繊細な要素が隠れずに聴き取れます。低域はIE40PROではBTR3Kが軽快で好みだったのに、HD25ではBTR5でのパワー感があって欲しいと思うようになります。わっと雰囲気を楽しむのであればBTR3K、聴き込みたいのならばBTR5がベター。アンバランスでこの差ですから、バランス化したらどうなるのでしょう。なお、そういった差を明確に知覚できるのはHD25だからというところもあるかもしれません。モニターヘッドフォンの面目躍如といったところでしょう。

ことHD25については、私はBluetoothレシーバーをヘッドバンドに固定して使いたいので、しっかりとしたクリップが本体に備わっているBTR3の仕様がベストでした。しかしBTR3KやBTR5では本体直付けのクリップが廃止されてしまい、いまひとつスマートではない別体の樹脂製クリップを介さないとヘッドバンドに装着できないのが唯一の不満ではあります。

    

7.試聴(ベイヤーダイナミック Aventho Wired

ベイヤーダイナミックはゼンハイザーと同じドイツのメーカー。ゼンハイザーが幅広い価格帯で数多くのラインアップを展開し、おそらく生産量も膨大な「総合ヘッドフォンメーカー」の印象であるのに対し、ベイヤーは加工が困難な金属部品を多用したりドイツでの生産のみにするなど、どちらかと言うと職人技的な製品をウリにしている、少しマニアックなイメージの会社です。Aventho Wiredは、ゼンハイザーHD25の対抗モデルと言われたDT1350のエンハンスドモデルの位置づけになると思います。インピーダンスは32Ω。

HD25とAventhoWiredとの一番の差は高域にあります。HD25はさきほども述べたとおりヘッドフォン界では高域がよく出る部類の代表的モデルです。対するAventhoWiredの高域は「普通」。以前にAUMEO AUDIOでテストした際に12.5kHz前後の領域でHD25との明確なレベル差を確認しています。ですので機種的にブーストされた高域特性のHD25とは違う、どちらかと言うと控えめな高域であるAventhoWiredの、BTRシリーズとの相性という点でここでは試聴してみます。

なおAventhoWiredについては「まめしばのヘッドフォン・ケーブル工房」様で作っていただいたアンバランスとバランス、2セットのケーブルがありますので、BTR3KとBTR5のバランス系統もテストをしてみます。

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beyerdynamic Aventho Wired (改)

 

ところで、2020年8月の本記事の改訂に際し、IE40PRO→HD25→AventhoWiredの順に再試聴しているのですが、(IE40PROやHD25のような)高域が良く出る機種から(AventhoWiredのような)高域控えめの機種に試聴を移した際、耳がなかなか慣れなくて時間がかかるものです。人間の耳には無意識のうちに働く調整機能があるらしく、高域がよく出る系のモデルから急にそうではない機種に聴き替えると後の機種の高域が恐ろしく聴こえなくて正しい評価ができません。私の場合は耳が慣れるのに2日間近くかかります。新しいヘッドフォンを買ってしばらくエージングをしたら音が良くなったという話。あれには人間側の耳の慣れが原因になっているものも多そうです。

  

閑話休題。

BTR3にアンバランス接続でつなげます。Aventho Wiredは、その音質がヘッドフォンアンプの駆動能力に左右されやすいという噂があるなか、BTR3はちゃんと振る舞っていると思います。前述のとおりBTR3は高域を少し抑えるので、もともと高域がHD25ほどは伸びないAventho Wiredではまるっとした音になり、聴きたい音楽のジャンルが絞られます。具体的に言うとYMOとか電子音楽系はHD25に譲りたい感じ。ボーカル中心の曲やジャズであれば、それこそ耳が慣れればあまり気になりません。

AventhoWiredのドライバーには強力なマグネットを備えた「テスラテクノロジー」が投入されているとカタログにうたわれています。このため半端なヘッドフォンアンプでは駆動できないのではと思わせるイメージがあるものの、この小さなBTR3でも小音量であれば破綻なく聴かせてくれます。ただBTR3のほんのわずかな高域の抑えは音の解像度にも影響があるため、スネアドラムやピアノのディテール部分が少し見通せないきらいは感じます。

  

BTR3Kのアンバランスで聴きます。BTR3にくらべて少し高域がアップしたことにより、スネアドラムの残響やウッドベースの弦の弾きを見通すことができ、解像度の改善や音場の拡大を得られます。それとこれも高域アップの効果なのか、パワーのある低域が連続する部分でも音がダンゴ状に潰れる感じはありません。

BTR3からBTR3Kに替えたことによる、各楽器が手前に出てくる現象は若干感じます。エレキベースが少し元気に聴こえてきます。ただIE40PROの時ほどの感激はありません。アンバランス接続で使うままでは、高域の若干のアップがBTR3よりベターではあるものの、そのためだけにBTR3からBTR3Kに買い替えるメリットは薄いと言えます。

  

こんどはBTR5でのアンバランス接続です。一定範囲での高域の出方はBTR3Kほど明瞭ではない感じ。ここでも感じるのはBTR5の「良いもの感・良い音感」です。試聴した曲の最初の一音から解像度の高さと音場の大きさを感じます。スネアドラムはBTR3Kほどには手前に来ないのに、その「機微」は見通せます。ただし「楽しい音か?」と言いますと話は多少違ってきます。できればエレキベースは手前に出てきて弾むように鳴ってほしく、このあたりはBTR3Kに若干のアドバンテージがあります。

  

***

   

いよいよBTR3Kのバランス接続についてです。
ここからは同じくバランス系出力を備えるBTR5との相対的評価にします。

  

まずBTR3K。BTR3Kが、というのではなく、バランス接続のそもそもの素晴らしさに思わず笑顔になります。すぐにわかる音場の拡がりとパワーへの余裕感。一度バランス接続にしたら、BTR3K or BTR5+AventhoWiredの組み合わせにおいてアンバランス接続に戻す理由が見つかりません。

これまで書いてきたとおり、BTR3Kは一定の領域での高域が少し強調されたような聴こえです。その性格がBTR3Kの音作りを支配している感じがして、さまざまな曲で「賑やか」な印象があります。また同じ理由でウッドベースもエレキベースでもその輪郭は若干明瞭で、本当はBTR5のほうが低域のパワーは大きいのにBTR3Kのほうがベースラインが快活に聴こえる場面も多いです。こうしたところから、先ほどAventhoWiredの高域は「普通」とご説明したものの、BTR3Kでは電子楽器系の曲でも(耳がAventhoWiredに馴染めば)楽しんで聴けるようになります。

  

いっぽうのBTR5は、そもそも音声処理回路系のランクがBTR3より一段上に思えます。特定の領域が強調された感じなどが無く、広い音場と繊細さと艶やかさ(クセの無いという意味での)フラットな感じとが、各曲の一音目から感じます。

仕様上の最大出力がBTR3Kの78mWに対しBTR5は220mWなので、例えば同程度の音量を出力させた時のヘッドフォンアンプの稼働領域の差から来る振る舞いの違いなのかと想像してもみたり。ただ、最大出力以外のスペックについてはBTR3KとBTR5は拮抗していて、カタログ数値上ではどちらかが明らかに劣っているというものではありません。

またBTR5のほうが価格が高いゆえに、プラシーボ(=思い込み)効果でBTR5が良く聴こえるのかと何度も自身を疑いながらも試聴するものの、BTR5の(BTR3Kと比較しての)「良い音感」は、どうやら揺るぎの無いところです。

繰り返しになりますが、BTR5はBTR3Kと比較して「強調」とか「修飾」といったキーワードを連想させない、良い意味で「フラットな音作り」です。各楽器は出しゃばらず、さりとてこちらから聴こうとするとそれぞれのパートに情報量があり各要素を緻密に聴き取ることができます。しかし「良い音」=「楽しい音」とは限らないわけで、曲によって弾むベースラインに起因するグルーブ感の高まりからBTR3Kのほうが楽しめるものも沢山あります。

  

なお(アンバランス系統しか持たない)BTR3とBTR5との差は明らかです。BTR3では「ボーン」という単純なアタックだと思っていた音に「ボウウーン」という細かい抑揚が存在していたなど、BTR5では多くの音の発見を楽しめます。

BTR5でのもうひとつの驚きは、これがBluetooth接続だと言うことです。Bluetoothと聞いただけで眉をひそめるオーディオファンの気持ちも理解できますが、BTR5については忌避せず試聴されたほうが良いと思います。

    

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バランスとアンバランス、ふたつの出力系統を備えるBTR5

  

8.まとめ

一連の試聴から、バイヤーズガイド的な表現でまとめてみます。

まず現在3機種とも持っていない場合、予算に余裕があればBTR5を選ぶのが無難かと。BTR5はどんな音なんだろう?と気にしながらBTR3Kを使うのは少々スッキリしませんので。BTR5は多少お値段が張りますが便利なディスプレイを備えていて電池残量の確認から細やかな調整までBTR5本体で確認&操作が完結するのも大切なところですし。

すでにBTR3を持っている場合も、アップグレード的な期待を込めての買い替えであればBTR3Kに行くよりもBTR5かなと思いました。

ではBTR3Kの存在意義は何か?と言いますと、第一に極めてコンパクトなサイズ、第二にはシンプルに「BTR3の後継モデル」という位置づけでしょう。すでに現在のFiio日本公式サイトにBTR3は掲載されていなくて、Bluetoothレシーバーのラインアップは¥4.4KのμBTR/¥11KのBTR3K/¥17KのBTR5と、価格差だけのラインアップ。その中でのBTR3Kは製品競争力向上の意味合いからバランス接続対応になったということです。オーディオにお金を掛けている人がたった¥6Kの差でBTR5の購入をためらう理由は無い、そういうことです。

あとはヘッドフォン出力の差です。ヘッドフォンのインピーダンスがかなり大きいものであればBTR5を選ぶべきかもしれません。

しかしながら、BTR3Kをネガティブな気持ちで使うのかと言うと決してそうではなくて、超小型で、快活な音で、曲やジャンルによってBTR5よりも楽しい事がいっぱいあると、ここは自信をもってお伝えできます。

じつのところ私はBTR5の「音の良さ」を認めながらBTR3Kの「音作り」も好きで、結局BTR3Kを手放すことが出来ないどころか、両方の使用頻度は半々くらいになっています。それは先代であるBTR3が商品企画も性能も非常に優れていたからこそでもあります。つまり仮にお小遣いの事情からBTR3Kを選んでも大丈夫ですよという気持ちです。ただしできればバランス接続で。

  

9.そのほか

ヘッドフォンアンプの出力が大きいBTR5であれば「ゴクウホーン」をあと少し豊かな音量で鳴らすことができます。BTR5購入のおかげでこんなところにもメリットがと嬉しくなりました。

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BTR5は「トキオ ゴクウホーン」とベストマッチ

  

10.さいごに

Fiioはこれまで有線式のヘッドフォンアンプを数多く開発し、多くのユーザーを獲得してきました。いっぽうオーディオマニアからはとかく嫌われがちなBluetoothレシーバーですが、Fiioが本気を出すとここまで出来る、いやもっと凄いのが登場するかもしれないと期待をさせてくれたのが今回のBTR5です。 なにしろ私のような保守的な者でさえヘッドフォンケーブルのバランス化に目覚めてしまったのですから。

FiioのBluetoothレシーバーはこのBTR5あたりをゴールにするのか、それともHi-Fiモデルとしてのスタートラインになるのか、今後の展開も楽しみです。

  

追記(2020年10月6日):

懸案となっていたHD25のバランス化を実施しました。そのフィードバックは今後、本ページに反映させてゆきたいと思います。

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FiiO BTR5 (FIO-BTR5-B)Bluetoothアンプ

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