和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

beyerdynamic Aventho Wired はHD25と共存させたいヘッドフォン

  

初めてうかがったフジヤエービック主催の大規模なイベント:「ヘッドフォン祭」。多くのうれしい体験は先日お伝えしたとおりです。その時の新たな出会いがこの製品でした。ドイツ「 beyerdynamic (ベイヤーダイナミック)」のヘッドフォン「 Aventho Wired(アベント ワイヤード)」です。本日はそのレビューを。

  

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beyerdynamic " Aventho Wired "

  

イベント最終日。午後の会場はかなりの賑わいで、どのメーカーの試聴席も混雑気味。運良く空いているところが見つかったというだけで座ったのが beyerdynamic を取り扱っている TEAC さんの試聴席でした。

beyerdynamic の製品はいくつか聴いたことはあったのですが、このモデルについては憶えがありません。実運用時を想定し、ヘッドフォンアンプではなく自分のiPhoneをつないで試聴してみます。「ん?これ音がイイ!」。

サイズはゼンハイザーのHD25とほぼ同じ。オンイヤー(=耳載せ)式のイヤーパッドもHD25と同じです。しかし音は高域を引き上げ硬質かつ鮮烈なHD25とはまったく違い、中音域に厚みがある、見た目のサイズからは想像できない艶やかで豊かなものでした。

  

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イヤーパッドはゼンハイザーHD25と同じオンイヤータイプ

このときブースで製品を説明してくださった担当の女性のかたの受け答えが的確で納得のゆくものでした。本シリーズには有線式の「  Aventho Wired 」とBluetoothレシーバー+ヘッドフォンアンプ内蔵の「 Aventho Wireless 」があり、両モデルのメリット・デメリットをキチッと教えてくださいます。

私は(結果的にダメな慎重派なので)試聴して「次回の購入候補に入れておこう」という思いでとどめました。しかしこの日のイベントに同行してくれた人が「 Wired 」を猛烈に気に入ってしまったのです。なんでも、自分の好きな曲のボーカルがグッと前面に来てとても楽しい音を聴かせてくれるとの感想です。しかも wireless ではなくて wired を選択。

その場で購入へのアドバイスを求められたので、音に間違えは無いこと、そしてこの日のTEACの担当のかたの対応に感激したので「これはご縁ではないか?」ということで購入を勧めました。幸いイベント期間中はフジヤエービックさんのオファー価格。即購入となりました。

  

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カラーバリエーションはブラックとブラウン

Aventho Wired はブラックとブラウン、ふたつのカラーバリエーションです。(写真のブラックは全く別の方面からの借り物)目立つ違いはイヤーパッドとヘッドバンドの革(ただし合成皮革)の色です。よく見るとイヤーパッドを受ける部分の金属パーツの色にも違いがあり、ブラウンのそれはシルバーのリングになっています。このため同じモデルとは思えないほど、色ごとに印象の違いが出ています。

  

その後もさまざまなエピソードが続きます。本品を購入したさきほどの人が一週間近く私に貸してくださったのです。私は手元のCDを試聴したりHD25と比較したりできました。おかげで私もすっかり Aventho Wired のファンになってしまいました。

「あの時一緒に買っておけばよかった。どうしようか?」と思いつつ過ごしていたところ、まもなくに思いもよらないラッキーな展開が。「さきのヘッドフォン祭の会場で買った Aventho Wired を売りたい」というかたと繋がったのであります。そのかたはオンイヤータイプのイヤーパッドがご自身に合わなかった由。

イベント会場で「たまたまTEACブースに座った」こと以来、不思議なご縁が続くものです。めでたく私も Aventho Wired のユーザーとなりました。

    

ゼンハイザーHD25(改)と並べてみました。

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sennheiser HD25(改)と Aventho Wired

beyerdynamic には Aventho 登場以前に「 DT1350 」というモニターヘッドフォン(以前に試聴済)が出ていて、HD25と同じオンイヤーの密閉型ヘッドフォン。開閉するヘッドバンドを備え音も硬質な傾向で、HD25のライバル機種を思わせるものでした。しかしその後に出た本品:Aventho Wired は、ドライバーを懸架(けんか)する部材などに DT1350 と似た部分がありますが、音についてはHD25から離れる方向に変化していました。

  

HD25と比べてみます(もちろんHD25も有線に戻しての比較です)。HD25はヘッドフォン好きの多くの人がご存じの通り、高域を少々過剰気味に聴かせます。同時に低域もよく出ています。その低域の出かたはドライバー(=スピーカー部)そのものが持つ音質だけでなくハウジング(ドライバー部を収めるケース部分)の設計でもかなり伸ばしているような印象です。結果、少し弾むような低音になっています。

こうしたHD25の音作りは「(典型的な)ドンシャリ」と表現されることがあります。しかし、ピアノのペダルを操作する際にマイクに回り込む残響音をしっかり聴かせてくれるあたり、特定用途としてのモニターヘッドフォンの役目を果たしていることを実感します。

  

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HD25は私にとってはずばり、YMOのライブ盤を聴くためにあるもの。本当に有り難い存在です。また「高域上げ」はクラシック系を除く大概の音楽が良い方向に聴こえてしまうので便利な設定でもあります。とりわけ高域成分が失われがちな騒音の多い場所や屋外での聴取においてHD25の音作りは私にとって都合が良いのです。

ただ、こうした高域&低域の際立たせかたは当然ですが相対的に中音域の抜けを生むため、ボーカルや弦楽器系の音源が耳から遠のいてしまう感じになると思います。それぞれの音源と向き合いたい聴きかたであればHD25とは違う方向性のヘッドフォンを持ちたくなるはずです。

    

ここで思い出しました。以前に買った BlueのMo-Fi。あれは本当に高域が出ていなくて「なんだかなぁ」と思ったことが多かったのですが、しばらく放置するとまた聴きたくなる音でした。結局それは中音域が厚くて、ボーカルがメインの曲で聴くたびに一定の「感動」があったからなのです。あいにく Mo-Fi はサイズが大きすぎて、ポータブル用途には不向きでしたが。

  

遠回りしました。・・・HD25 とくらべ Aventho Wired は中音域が厚い。そしてMo-Fiでは得られなかった「きめ細やかさ」と「艶やかさ」がしっかりと織り込まれた良質な音と言えます。

高域は、音階で言うところの「高音」はしっかりと出ています。でも、さらにその上の雰囲気音(?)については「まるっとした感じ」です。たぶんHD25を常用しているから、その「まるっと」が気になるだけで、他社の、ソニー以外のヘッドフォンを使っている人にとっては気にならないものかもしれません。

ドライバーの径は小さそうですが低域は出ています。それも力強く。とは言え、最近のヘッドフォンに多いブースト気味の低音とは違うジェントルなものです。高域から低域まで、どこかが突出していることの無い、どこかが欠落していることも無い、スムーズなつながりを感じます。

  

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フラットになるドライバー部と添付のケース

Aventho Wired で聴きたいジャンルは、私としてはボーカルがメインのもの、あるいは弦が楽しめるジャズ系あたりです。そう思うと、自分にとってHD25と具合良く棲み分けが出来ていることが分ります。ピアノも良いです。クラシック系は専門外なので皆さんでご確認を。

オンイヤー式で展開される音場(聴いていて感じる音の空間)は小さいです。Aventho Wired ではその傾向がさらに顕著になっています。耳(頭)に近いところで声や各楽器が鳴っている感じ。中音域が厚いことも含め、前述のような「自分の好きな曲のボーカルがグッと前面に来て」という表現もここで理解が出来ます。

けれども Aventho Wired で聴くYMOのライブ盤はHD25と比べてしまうといまひとつです。音場が小さくてホールで聴いてる感じがしないことと、デッド(=残響の無い部屋で聴く音)の対義語としてのライブ感、つまり高域由来のエコー成分が不足していることが原因と思われます。

  

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装着イメージ(ケーブルは外してあります)

 乱暴な言いかたをすれば、高域を引き上げているHD25の音はどんな音源でも良く聴こえてしまうものです。高音という「輪郭」に耳が騙されてしまうので。でもその高域の影響で中音域の音が感覚上隠れてしまい、肉声や弦といった人の心にぐっとせまる要素が減じているのは間違えありません。

いっぽうの Aventho Wired は高域に抑制をかけているので、さきほどの「輪郭効果によるつぶし」が効かず、曲によって好印象なもの/がっかりなものが割と明確になってしまう。音場の小ささもその振れ幅に加担してしまう。そんな感じです。

しかしそれは Aventho Wired の欠点とは思っていません。なぜなら、HD25で聴いていると「絶対にこれは Aventho Wired で聴いたほうが良い」という曲が現れてきて、その時にこのヘッドフォンは期待を裏切らないからです。ヘッドフォンにオールマイティーさを求める必要が無いことを、この Aventho Wired は教えてくれました。

  

なんだか文章が難解になってしまい、ちょっと反省。今後も引き続き、分かりやすい表現になるよう手直ししてゆこうと思います。

  

→  フジヤエービック 公式サイト

→ Avento Wired 公式ページ

   
*国内で販売されている Aventho Wired には並行輸入品(または「直輸入品」と表記)もあります。並行輸入品は法には触れませんが日本の正規輸入代理店の製品保証やサポートの対象外となることがあるので注意が必要です。並行輸入品も販売者のサポートが万全であれば安心ですが。私はこれまで日本で購入した並行輸入品で困った経験はありませんが、ebayや海外Amazonから取り寄せた自己輸入品ではヘッドフォンやヘッドセットの初期不良が6回ほど。返品や交換が面倒でした。海外Amazonのマーケットプレイス品では「NEW」の記載なのに箱がボロボロ(おそらく店舗展示の回収品やお客からの返品商品を回している)だったりします。ヘッドフォンは音質の些細なトラブルを販売者にアピールしづらい商品ですので、提示されている価格とその背景をよく考え・確認してから購入しましょう。

  

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