和田哲哉・LowPowerStation

考えて使う・楽しく使う

アシダ音響 ST-90-05 は個人的に「細野フォン」と呼びたいヘッドフォン

  
この私でも「ヤバい」という言葉を発してしまうヘッドフォンを購入しました。
アシダ音響株式会社の「ST-90-05」です。
  

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アシダ音響株式会社 ST-90-05

アシダ音響さん(以降敬称略)は放送局や録音スタジオといった業務向けのヘッドフォンやヘッドセット、収録用アクセサリーなどを製造している老舗の音響機器メーカーです。

2020年9月に、同社のツイッター公式アカウントが「ST-90シリーズをコンシューマー(=一般ユーザー)向けに製品化したST-90-05の販売を開始」と発表。まもなくに音楽にお詳しい私のお知り合いのかたが購入し高い評価をされていて、それならばと私も購入を決めた次第です。

  

本製品は、この私でも「ヤバい」という言葉を連発したい要素に溢れています。

まずメーカーがヤバい。アシダ音響のヘッドフォン類については「ASHIDAVOX」のブランドで業界はもちろんのことヘッドフォン好きの間でも知られていましたが、いかんせん業務用という認識でした。自分がこのメーカーの製品を買うとは思ってもみませんでした。

次に価格がヤバい。大口径のドライバー(=スピーカーユニット)を備えながら購入時価格は非常に安価でした。後述するこの音質をこの価格で入手できたことに驚きです。

そしてデザインがヤバい。コンシューマー向けとは言っても見た目はアシダ音響の業務用ヘッドフォンそのまま。プリミティブと言いますか無骨と言いますか、正直なところ注文をしてから「これが届くのか、どうしよう!」という不安と期待が入り交じった気分になりました。

  

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コンシューマー向けとは言えデザインは業務用のそれ。

  

最後のヤバい。それは実際に音が良かったことです

到着後すぐにオーディオセットをつないで一時間ほどの慣らし運転。あとはデスクワークをしながら、自分のライブラリにあるほぼ全ジャンルの曲を試聴してみました。

  

まず、高音域から中音域までは気になる要素は無くていわゆるフラットな音の出かたです。例えばゼンハイザーのHD25では高音域が特段引き上げられていて好みが分かれるところですが、本製品はそういったクセはありません。かといって高域が不足してエレクトリック系の音源で残念になるという心配は無いと思います。面白いのは高音域のさらにその上の倍音成分の領域が充分に出ていて、私が超高域確認用に使うCDの再生においてはHD25と肩を並べる傾向を示しました。ちなみにAventho Wiredはこの音域はあまり出ません。

中音域から低音域にかけてはST-90-05のキャラクターがふんだんに表現される部分です。この音域が少々強めに出ています。言葉で表すのならば「ボンボン出てくる低音」です。あいまいな言い方ですが「中音から低音まで」のわりと広い範囲が元気です。

音場はこんなに小さな密閉式ヘッドフォンの割に広めです。左右チャンネルの分離に不満は無く、この先わざわざバランス接続に改造しなくても大丈夫そうです。

高音域から中音域までの音のきめ細かさ(解像度)もなかなかでした。聴き込むと(私が所有しているバージョンの)HD25やAventho Wiredと拮抗しています。一般の人であれば実売価格差が5倍違うAventho WiredとST-90-05との区別が出来る人はそうそう居ないと思います。

  

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ST-90-05のドライバー部分

いちおうイヤーパッドを外してドライバーを観察します。隙間を覗き込んで様子を見ると振動板だけの直径は36mm位に思われます。かなりの口径です。

  

高音域から中音域まではaccurate(=正確)、中音域から下は膨らみ傾向。音量抑えめにして聴いていますと、密閉式ヘッドフォンなのに快活な、ちょっとオープンエアタイプのヘッドフォンで聴いているような気分になります。

音量を適切に上げればボーカルも弦楽器もクオリティーの高い音質であることが解ります。ただ、しっかり聴こうと音量を上げますと知らず知らすのうちに中音~低音までのボリュームは相応に大きくなるので、耳への負担に気をつけてください。

  

ひとつだけ注意点。気のせいかもしれませんが、「久しぶりに使う最初の音」は、あまり音が良くないです。たとえば買って箱を開封してすぐの音。あるいはしばらく保管していて久しぶりに使う際の最初の音は「あれっ?」って思うくらい貧弱な音だったりします。しっかりと音を鳴らして、10分、20分と経つうちに本機本来の音が出てくると思います。あくまで気のせいかもしれませんけれど。

  

ちょっとこじつけにもなりますが、個人的にはYMOや細野晴臣さんの楽曲のベースラインを聴き出すのに都合の良いヘッドフォンだなと思いました。具体的に言いますと、細野さんのアルバム「HOSONO HOUSE(旧バージョン)」の「薔薇と野獣」にある、ファンキーなのに他の音に隠れて聴きづらいベースラインを拾い出せたり、荒井由実のアルバム「ひこうき雲」の中の細野さんのベースやアコギを堪能できたり。これはもう「細野フォン」と呼んでしまいたい気持ち。これからYMOのライブ盤も楽しみたいです。

  

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このプリミティブなデザインを身につけて出かけてみたい

コンパクトなドライバーのケーシングと110gの軽量ボディー。心配していたイヤーパッドの感触は良好・快適でヘッドバンドの側圧も控えめ。長時間の装着にも問題ありません。となると、これを身に着けて街に出かけられるかどうか。若い人なら無骨な外観も「ギャップから生まれる可愛らしさ」になるでしょうけれど、オジサンには厳しいかな。でも出かけたい。

  

購入からこれまで、常にドキドキとニコニコの繰り返し。ヘッドフォンが到着してからこんなに楽しい思いをしたのは久しぶりです。どれだけ楽しかったか、それは本記事に掲載した写真への入れ込みようでご理解いただけると思います。

  

追記(2022年11月25日):

この記事を最初に書いたのは2020年の秋頃です。

発売当初、このヘッドフォンは(いや、アシダ音響の存在も)一部のマニア以外には知られていなくて、自分が本機を購入した当時には検索しても関連記事はほとんど見当たりませんでした。

「ST-90-05」は音楽関連にお詳しいお知り合いのかたが購入され、私に教えてくださったのがきっかけです。おかげで私が書いたこの記事は以降、非常に多くのかたがたにお読み頂きました。そしてメジャーなメディアやブログが取り上げるたびに当ブログにもアクセス数の大波がやって来る、そんな状況が続いています。

  

本機が話題になっている最大の要因は「比較的音が良い(素性が良い)のにとても安価」であるところです。これはメーカー、それも本当に直接製造している部門が直販しているに近い形態だからこそのコストパフォーマンス(=CP)と推測されます。

通常、ヘッドフォン製品の多くは、製造原価+大きなメーカーが動く諸経費+流通+小売の段階を経ますから、CPが本機に劣るのは当たり前のことです。また海外のモデルですとこれまた結構な負担がかかる輸入代理店での経費もありますから、なおさらCPの乖離が生じます。

ですので、あまりに本機を「安い割に音がイイ」と騒ぐのは現状のヘッドフォン業界の否定になってしまうような気がしないでもありません。

私だって当時は「安いけど音イイ」と書いたものの、せいぜいマニアが狭い範囲で楽しむ程度のものと思っていました。

世の中には、(多少高いけど)音の良いヘッドフォンが沢山あります。いや、音が良いと言うよりも「良き個性のあるヘッドフォン」と表現したほうが適しているかな。

もしST-90-05がきっかけでヘッドフォンに目覚めたかたがおられましたら、機会あれば実店舗やイベントで他のメーカーの製品(ヘッドフォンやヘッドフォンアンプ)も試聴されることをおすすめします。そうして、さらなる素敵な出会いがありますようにと願っております。

    

この記事には続きがあります:

blog.sprg.jp

   

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