(アクセスが多いので2020年12月に加筆修正を行いました。また、本記事は2018年10月発表版モデルについてのレビューですが、エンジンの方式に大きな変更が無かったこの1.6L車については現行モデルを検討の際にも参考になるかと思います)
ディーラーさんから代車として「スバル XV」をお借りしました。
ずっと運転してみたかったクルマでした。
自車を点検に出した際の代車としての借用でしたが、やむをえず遠方に出向く用事があり、ディーラーさんに事前にご連絡の上かなりの距離を走行できたので印象を書いてみます。
これは2018年10月にマイナーチェンジされたモデルで、排気量 1.6L、2.0L、2.0L+ハイブリッド と3つのエンジン・ラインアップになっています(注1)。いずれもターボは付いていません。XVは全てのモデルがAWD(All Wheel Drive =四輪駆動)です。お借りしたのは排気量が1.6Lでグレードは「1.6i-L EyeSight」。安全+疲れ知らずのアイサイトが備わっています。
(注1:2019年のマイナーチェンジで2.0Lエンジン車は全てハイブリッドになりました)
このXVはフルチェンジで数える「世代」としては三代目。初代から三代目までのいずれも、基本ボディーは同社の「インプレッサ」をベースにしていて、その地上高を引き上げ、多少の悪路でも走破できるいわばSUVのカテゴリーに入るクルマです。
SUVと言ってもさまざまです。最近は二輪駆動のまま地上高を少し上げて外観をそれ風に仕上げただけの雰囲気先行派が多いですし、なかには地上高すら上げずSUV指向を謳うモデルさえ出ています。
XVは200mmもの地上高を確保(注2)し、スバルのお家芸とも言える「水平対向エンジン+シンメトリカルAWD(=重心の低いエンジンと左右対称系の四輪駆動メカニズム)」を標準で備え、またこの三代目からは「Xモード(=四輪の駆動力やブレーキをコントロールして悪路や坂道を安全に走破する能力を高める別設定モード)」も追加されています(一部グレードを除く)。スバルAWDの走破性能はXモード無しでも評価が高いですから、Xモードが加われば相当に高いオフロード性能を発揮できます。つまりXVはクルマの性格を雰囲気で語らない「本物のSUV」と言えるでしょう。
(注2:かなり背が高く見えるトヨタ ヤリスクロスでも最低地上高は170mm)
じっさい北米をはじめ海外ではXVを本格的なオフロード車として展開していて、メーカー販売時点で日本のモデルよりも地上高をさらに20mm引き上げたものもあるようです。(youtube を開いて「subaru xv crosstrek」などで検索すると海外向けモデルの動画が出てきます)
「自分はオフロードなんて走らない」と考えているかたも多いかもしれません。でも河原に降りてのレジャーとかキャンプ場での駐車場とかで深い轍(わだち)があったり、大小の石が転がっている箇所には結構遭遇します。畑仕事で道路脇のぬかるんだ傾斜地に駐車することもあるでしょう。そういった場面でも地上高が充分にありXモードを備えた四輪駆動なら無理をしない限りサラッと走れるので安心です。
今回も目的地のひとつがほんの数百メートルながら林道めいたルートの先にあって、一部の区間は轍の深めな未舗装路と普通のクルマであれば少しひるんでしまうような傾斜もかかっていましたが、XVなら何の不安もなくこなしてしまうのでした。
またスタッドレスタイヤ+四輪駆動であれば雪道での安全性は言うまでもありません。
写真(下)はXVのフロントまわりです。
インプレッサをベースにしながらもブラックアウトされたグリルやXV専用にデザインされたスクエアなシェイプのバンパー、アンダーカバー風のデザイン、フォグランプの適切な配置などからSUVらしい力強い外観に仕上がっています。個人的にはスバル全車種の中でもかなりカッコイイ顔つきだと思います。エンジンフード後端には歩行者衝突時に展開するエアバッグが標準で備わっていました。
悪路走破を想定した扁平率の高い(=甲高の)タイヤとXV専用デザインのアルミホイール、汚れが付きにくいエンボス加工が施された樹脂製オーバーフェンダーの全てが見た目良く収まっています。XVはSUVの中では日産の初代キャシュカイと並んで好きなデザインです。
グレードの差によってアルミホイールのデザインやタイヤサイズ、アンテナの形状(ショートロッドタイプかシャークフィンタイプか)、あとはガラスの色味等に違いが出ますが、それらが簡素化された「1.6i-L」でもあまり見劣りすることが無いのはうれしいです。
このボディーカラーは「クールグレーカーキ」。ソリッドな(=メタリックやクリア層を感じない)コッテリ&ペタッとした青色系のグレーです。私は二代目XVの「デザートカーキ」という塗色も好きでした。ソリッド系カラー枠として二代目のデザートカーキから三代目のクールグレーカーキに引き継がれたのでしょう。
このカラーは結構人目を引くようです。お借りした短期間のうちにでも信号待ちなどで年代がバラバラな三人が車体に視線を送っていました。
もっとも色は流行りがありますから、長い期間乗られるのでしたら無難な色を選ぶのもいいでしょう。たとえばホワイトを選んだら後部にワンポイント、小さくても赤い色のステッカーを貼るだけでも全体の雰囲気が引き締まりますのでヒントにしてみてください。
インテリアを見てみます。
最近登場したスバル車はいずれもインパネ周りに共通のレイアウトを採用しています。
奇をてらわず安心して運転できる丸型2連の速度計と回転計。それらの間にはアイサイトに関する情報を表示するディスプレイがあります。カーナビ画面の両側には縦型で開口部の大きなエアコンの吹き出し口。カーナビの上方にはエアコンの設定温度や燃費の成績などいくつかのステータスを表示できるディスプレイが備わります。XVではこのディスプレイに左右と前後の車体傾斜度表示も追加されます。
エアコンの操作パネルを含め、表示類、スイッチの配置や形状、操作感はいずれも良好・快適でした。
総じて抑制の効いている、さりとて動体デザインもほどよく加味されている「大人らしさ」と「カッコ良さ」とがバランス良く備わった内装だと思います。
シートは、私自身がやせ形体型のため、悪いシートに座るとすぐにお尻が痛くなってしまうことから「人間シートセンサー」だという自負(?)があります。昔のスバル車のシートは1時間座っていられないひどい物もありました(シートを供給しているメーカーは国内の良いところだったはずなので不思議でした)。それがここ十数年ほどで急速に改善が行われています。今回のXV1.6i-Lのシートも座面のセッティングからホールドまで満足の行くもので片道4時間超えの運転でもシートで嫌な思いをすることは皆無でした。
スバルのラインアップは、クラス的には上からレガシィ&アウトバック、レヴォーグ、インプレッサ& XVの順になると思います。スバル車の場合、ここにプラットホーム(車体の基本部分)の設計世代を重ね合わせると、内装のグレード感や動的性能のランクを正確につかむことができます。
このXVは2020年秋まで販売していた初代レヴォーグよりもプラットフォームの設計世代が新しいため、車体の基本構造や内装の質感などは初代レヴォーグよりXVのほうが上という逆転現象になっています。ホイールベースもXVは初代レヴォーグを上回っています。
後席まわりは明らかに初代レヴォーグよりXVのほうが広くて快適です。グレードによっては100万円近くも安価なXVの内装が初代レヴォーグよりも上質に感じます。おトク。
車体の安全構造もXVは良さそうです。A:ボリュームたっぷりのピラー基部、B:高さと断面積のあるサイドシル、C:ボディー側面からシートまでの距離が十分に確保されている等です。
次に大事な走行フィーリング。
往復で430キロほど走りました(借用期間中に遠方への用事があることはディーラーさんに事前に申告済)。ひと言で表すと1.6Lノンターボの四駆は少々パワーが不足気味かなと。自分がターボ付きのモデルに乗っていての相対的な印象であることは否めませんが、例えば高速道の加速合流車線でアクセルをかなり踏んでもあまり加速しなくて怖いと思う場面が数度ありました。定常走行では一般道でも高速道でもおおむね満足ですが、ときどき「あっ、こういう時はこんなに加速しないんだ!」とびっくりしたものです。
(XVの名誉のために書くならば、二輪駆動車よりも少し多めの機構を備えていて、走行抵抗も車体重量も増加する四輪駆動ですので仕方のないことです)
なお、もしかしたらこれは2018年モデルのCVT(=変速機)にプリセットされたアクセル開度~変速の自動制御スケジュールにも原因があるのかもしれません。いまや世の中のクルマは燃費が第一ですから、おいそれと元気に走らせるスケジュールにはできないはず。シフトレバーをマニュアル変速モードにしてパドルシフトを積極的に使ってゆけば解決するのか、試し忘れたのが今回一番の心残りです。
クルマは知恵を使って運転を楽しむものですので、1.6L車の特性を理解しちゃんと予測運転が出来るドライバーであれば心配ないものの、運転に自信の無い人だったらむしろ2.0Lを選んだほうが安全かもしれません。「高パワー=危険」と連想するかたが多いでしょうけれど、私は「パワー=危険回避」という利点を考えたいほうです。
後日確認したところ、二代目のXVは2.0Lエンジンのみ、1.6Lは三代目からXVの廉価版として追加されたモデルでした。やはりXVにとっての標準は2.0Lエンジンということでしょう。ただ、日本の道路事情もユーザーの日頃の走行パターンもさまざまです。たとえば栃木県の平野部のように、平坦路が多く一般路でも比較的信号が少なくてほどほどハイペースで定速走行できる地域であれば1.6Lでも不自由は感じないでしょう。スタイリッシュで装備も十分な本格的四駆SUVを手頃な価格で入手できる1.6Lモデルの設定はユーザーにとって有り難いことだと思います。
サスペンションは適度にソフトで適度にシッカリ。一般道をトコトコとゆっくり走るのも高速道を長時間クルーズするのも快適。地上高の大きいSUVゆえか、ごくまれに前後左右のブルンブルンといった細かいゆすられ感はあります。でも高速道路でのコーナリングは狙った通りにトレースしてくれますし全く問題ありません。総じて、大きい地上高に起因する不安はほとんど感じませんでした。
もともとが北米市場向けに作られているモデル。前述のとおりプラットフォームの世代も新しいものです。高速道ではホイールベースも横幅もあって安定した走行感覚。前後ともに座席はたっぶりとしていて、400km程度の走行では全くの疲れ知らず。運転中は常に「良いクルマに乗っているなぁ」という感じがします。
このところのSUVブームで「XVのような少し地上高を上げたクルマ」が各社からたくさん出ていますが、前後席ともにゆったりとくつろげるシートと居住空間の広さはXVの大きなメリットです。もちろんアイサイトも運転疲れの軽減に大きく寄与しています。
ラゲッジルーム(荷物室)は5ドアハッチバックのそれと言ったところです。例えば大きなベビーカーや折り畳み式の車イスを積むのは容量的にも使い勝手も難があります(リアシートを倒せば広い積載スペースが生まれます)。安全性を確保するためかラゲッジルーム手前の敷居はかなりの高さで、そのうえバンパーも張り出していますから、重い荷物を載せ込むのには少々苦労します。さすがにこのあたりはミニバンにはかないません。帰省する際の荷物の一部はダンボールに詰めて宅急便で実家に送ってしまいましょう。
1.6Lモデルのメリットは2.0Lと比較して手頃な価格。装備に多少の違いはあるものの「1.6i-L」と「2.0e-L」(いずれも2019年モデル)で32万円位の価格差。割合で約12%の違いです。1.6Lの走行特性を理解できていれば、さまざまな安全装備が標準で付いている上に上質な内装、カッコ良いSUVスタイルと高度な舗装路&未舗装路走破能力のオールパッケージをこの価格で楽しめるのはアドバンテージがあります。
いっぽう、首都高のような高速合流箇所を頻繁に走行する人、長野のような山間部にお住いの人、一般道でもアップダウンのある道で流れ良く走りたい人であれば(試乗はしていませんが)2.0Lエンジンが良さそうに思います。
追記1(2019年11月14日):
2019年11月販売のモデルからXVの2.0Lは全てe-boxer(=マイルド・ハイブリッド仕様)のみになってしまいました。他社も同様ですが、近い将来のスバル社トータルでの燃費基準に適合するためには、こうせざるを得ないということでしょうか。
追記2(2019年12月28日):
今回試乗したモデルにはハンドル部分にパドルシフトが付いているので、クルマ任せ(=プリセットされたCVTの加減速スケジュール任せ)ではなく、自身で積極的にCVTの変速比を選んでの走行も可能です。しかし私は日常でパドルシフトを使わないですし、だれしも日常走行のほとんどがプリセットされたCVTの加減速スケジュール下での運転でしょうから、そうした観点から本記事では試乗車のCVTのスケジューリングについて指摘しました。最新の1.6Lモデルはもしかしたら、このスケジューリングは改善されているかもしれません。
1.6リッターモデルを本格的にご検討(で心配性)のかたは、50km→90km加速時の挙動については、最新モデルをご自身で試乗して「CVTプリセットスケジュール」と「パドルシフト操作」の両方でのパフォーマンスを確認されるとよいかもしれません。
追記3(2020年1月18日):
XVは工場出荷時オプションとしてルーフレールの設定があります。クルマにルーフレールを付けるとだいたいはカッコよくなるものですしXVでも似合いますが、XVのルーフレール無し時の全高(=いわゆる車高)は(ロッドタイプのアンテナをたたんで)1550mm。これって全国にまだ数多く残っている旧式の立体駐車場に多い制限高と一致します。
最近はSUVブームで各車の全高が上がっていて旧式の立体駐車場に入れないケースが増えており、そのおかげで旧式駐車場の1日停め駐車料金が地域の駐車料金価格よりも安く設定されている場合を見かけます。都心の一等地でも旧式駐車場だけ激安とかの例も。ルーフレール無しならばそういう駐車場にサクッと入れられる可能性もあることをおぼえておくと良いでしょう。
なおXVの上級グレードに備わっている「シャークタイプアンテナ」の装備車はカタログ上の全高が1550mmでも立体駐車場によっては1550mmと認めてもらえない場合があるようです。
追記4(2020年1月20日):
今回は燃費には言及しませんでした。燃費について語れる客観的なデータが無かったからです。クルマは地域の走行パターンやドライバーの運転具合でその燃費に大きな差が出てしまいます。
幸い今回は走行区間の8割以上が高速道路だったためXVのカタログ値に近い好燃費でした。しかし本車はハイブリッドの無い1.6リットル車でしかもAWDですから、自宅から半径2キロ以内の住宅地を低速でウロウロするだけなどという乗り方では、リッター6~7キロ台の発生は覚悟しておきましょう。
燃費についてはウェブや雑誌の情報だけでなく、セールス担当にその地域の道路事情をふまえた燃費傾向をたずね、ハイブリッド車の燃費差と車両価格差を考慮に入れたトータルコストを事前に算出することをおすすめします。
追記5(2020年1月24日):
いまいちど燃費について。最新のXVにおいてエンジンは、ハイブリッド無しの1.6Lと2.0Lハイブリッドの2種類だけです。当然、ほとんどの走行パターンで2.0Lハイブリッドのほうが燃費は上でしょう。このため皆さんはクルマを買ってから手放すまでに合計何キロ走行すれば購入時の価格差分をガソリン価格の差で相殺できるかを一度はシュミレーションすると思います。
ただ、クルマを買ってから3~4年で買い替える人もいれば8年・10年と乗る人もいます。長期間乗ればハイブリッド車特有のメンテナンス費用は発生するでしょうし、無いと願いたいですがハイブリッドゆえのトラブルも出てくるかもしれません。私などは、e-boxer車にはハイブリッド用のバッテリーとは別にエンジンルームにバッテリーが2個も搭載されていることにたじろぎました。いまやアイドリングストップ対応の高性能バッテリーの価格は4万円台の後半にもなりますので。
購入時費用を抑えてクルマを手にしたい人にとって購入後の燃費は必ず直面する問題ですが、モーターやバッテリーの無い「スッキリさ」も人によってはメリットになりえます。また、2.0Lハイブリッド車は1.6L車と較べて車両重量が120キログラムも増大してしまうことも勘案して、じっくり検討したほうがよいと思います。
追記6(2020年1月24日):
地上高に余裕のあるXVゆえ、本記事ではついついAWD(=四駆)のメリットをオフロードの走破性能を中心にして語ってしまいました。しかしスバル乗りであればスバルAWDの良さは(走行距離のほとんどを占める)オンロード走行にこそあると認識しているのではないかと思います。
スバル車の、低重心と言われている水平対向エンジンにシンメトリカルAWDがカップリングされた走行感覚はやはり独特で、加減速時やハンドルを切った時の挙動、劣悪な気象条件下での走行など毎日のさまざまなシーンで「安全」とか「安心」を感じることができます。アクセルを踏み込んだ時、車体をかなり水平に保ったままの姿勢でグッと加速するところとか、通常なら恐さでしかない夜間+雨中の長時間高速走行でも思いのほかストレスを感じなかったとか、毎日の走行のなかで「これがスバルの良さかっ!」と合点がゆくことがいっぱいあります。
1991年、私にとって最初のスバル車となった初代レガシィを運転した時、それ以前に乗ってきた他メーカーの車たちの7年間は何だったのだろう?と軽いショックを受けたほどです。四駆の燃費が悪いのは避けられませんが、スバルAWDにはオンロード・オフロードを問わず安心・安全というプラスアルファが備わっていることをここに記しておきたいと思います。
(ご注意:以降はAmazonのアフィリエイトリンクです)
※本ページに記載の内容は個人の感想です。
※本ページに掲載の製品は仕様が変更されることがあります。
※製品の最新の仕様や動作はご自身でご確認ください。