ゼンハイザーのインナーイヤータイプのヘッドフォン:「 IE 40 PRO 」のレビュー。前回の記事の続きです。
日本国内では昨年末の発表後まもなくに売り切れとなり(Amazon USでも同様の現象でした)約2ヶ月もの欠品期間を経ての入手でした。ここに来て主要なオンラインショップには私が買ったクリアーのほか、渋いブラックも揃い始めているようです。
購入から一週間ほど。音楽を聴かない時も鳴らし続けてきました。ヘッドフォンは機械的動作の製品なのでドライバー(スピーカー部)の動きはこなれてきたと思います。
これまでインイヤータイプを避けてきて経験の浅い私ですが、耳の中に入れるイヤーチップにも慣れましたし、イヤーチップ毎の音の傾向も分かってきました。
いまの率直な感想を述べますと「非常に良い」です。音だけでなくリーズナブルな価格も考慮に入れて総合での星5つです。
音の傾向も装着感も製品を構成するパーツ類の確からしさも。待った甲斐がありました。ただ音は好みが大きく出るところですから私の感想は参考程度にお願いします。
IE 40 PRO は実売価格が一万円台前半と安価にもかかわらず、なぜか「PRO」の3文字が付いています。普通「プロ」と言われたら「オーディオにうるさい人たちも認めるハイエンド機種」と思いがちです。しかし IE 40 PRO より上の価格帯にはゼンハイザーだけでもすでに多くの機種が存在しています。実売価格でIE 40 PRO の3倍くらいするIE 80シリーズはマニアと思われる人々から高い評価を得ています。実際良い音です。その上には遥かに値段の高いIE 800などもあります。ゼンハイザーが一万円台前半の本機をPROと呼ぶ理由を探りながら仕様を見てみます。
まず外観です。本体色は写真の「クリアー」と不透明ボディーの「ブラック」。こうした無彩色系は本来なら精悍な印象を与えるはずですが、本体は格好良さとは縁の無さそうな、大きな豆みたいなカタチをしています。ライバルメーカー達は本体を格好良いものにしようと印象的な外観や彩色を追い求めているのに。しかし IE 40 PRO 本体の耳への収まりの良さ、フィット感はなかなかのものです。IE 40 PRO は見た目よりも実(ジツ)を優先させているようです。
IE 40 PRO で気に入っているのは、ヘッドフォンケーブルを耳の後ろ側に回す装着方式です。ヘッドフォンケーブルのうち IE 40 PRO の本体から60mmほどまでは少し硬い太めのパイプで覆われています。このパイプは指で整えたカタチをおぼえているため、耳たぶを取り囲むカーブを描けば耳を上手い具合にホールドしてくれます。
この装着方式によって割と激しい身体の動きに対しても IE 40 PRO が耳から脱落するのを防いでくれます。またケーブルの存在感が薄れますし、ケーブルに触れて発生する振動ノイズが IE 40 PRO の本体に伝わりにくくなるメリットも生まれるでしょう。
最初からIE 40 PRO に一体化され備わっているこの太いパイプ部分は、長さや硬度の設定がちょうど良く、IE 40 PRO の使い勝手を高めています。
いっぽう上位機種である IE 60 や IE 80s は、ヘッドフォンケーブルの本体側は太くなっていません。もちろんそのままケーブルを耳の後ろ側に回して使うことはできます。耳を確実にホールドするのには、標準で添付されている別部品を装着しての対応となります。
IE 40 PROには「ステージやスタジオ等でモニター用ヘッドフォンとして使うのならば迷わずこの仕様&使い方だろう」との強い意思を感じます。
ヘッドフォンケーブル全体も少し太めで、しかもプリンと弾力性のある丈夫なタイプです。このようなケーブルでは重量が増加する恐れがありますが、それよりもケーブルの耐久性やケーブルが不意に細かく絡むのを防ぐメリットを優先させているようです。
本体とケーブルは着脱式。本体とケーブルをつなぐコネクターはインナーイヤー式ヘッドフォンで広く普及した規格である「MMCX」方式を採用しておらず、今のところゼンハイザーの、しかもIE 40 PRO だけの形状・方式になっています。
ケーブルをIE 40 PRO 対応のものに限定し、ケーブル交換可能という仕様を(各社のケーブルに交換することで音質の変化を楽しむという使い方には考慮せず)「消耗・破損時の純正品への適切な交換」の目的に絞りたい、あるいは指定ケーブル込みでトータルの音質を保証したいということかもしれません。
個人的にはこのコネクター方式を採用したゼンハイザー純正のBluetoothレシーバー付きケーブルを今後発表して欲しいと願ってはおります。
音質は明瞭と言う表現を超え、際立ってシャープな高音域が特徴です。中音域・低音域は音圧とか量感は曲によっては少し減少傾向。音の輪郭がはっきりと解る一方、静かなリビングルームで音楽そのものを楽しむという意味での雰囲気重視の音からは少し距離をおいています。
ウェブの評価では「高音が刺さる」という声を見かけます。幸いと言いますか私が使っているDAC/BluetoothヘッドフォンアンプのFiio BTR3は高域をほんの少しソフトに出してくるので、IE40PROとのマッチングは良く、気になっていません。
聞こえる要素をより具体的に言うと、高域はドラムのハイハットのような「リズムを切る」役目となる音が明確。中域と低域は音楽として楽しむ量感は少し控えめながらベースなどの存在と進行を見失うことなく追える音作り。音圧による耳疲れを抑えつつ、バンド演奏時に演奏者が互いに確認したい「リズム」と「グルーブ」の把握を容易にしている印象。
こじつけかもしれませんが、結果として音楽的なリッチサウンドよりもライブやスタジオでの演奏者のモニター的性能を実現している気がします。IE 40 PRO の「プロ」と呼ぶ最も大事なポイントは、この音にあるのかも。
とにかくドラムのハイハットが力強く聴こえるしベースの進行が明瞭なのでYMOのライブ盤を聴くのが好きな私としては笑顔です。ゼンハイザーHD25に続き「YMOファン向け推奨ヘッドフォン(by和田)」の二号機に認定したいです。
イヤーチップは合計4セットが同梱されていました。最初に本体に備わっているのがシリコンラバータイプの中サイズ。シリコンラバータイプはこのほかに大と小がセットされています。写真の右端はウレタンフォーム素材で出来た、いわゆる「COMPLY™」(コンプライ)タイプのイヤーチップです。手前の器具はイヤーチップのクリーナー。
コンプライタイプは最近人気のもの。「シリコンラバーのイヤーチップは違和感があるけれどコンプライにしたら耳の痛みが軽減され、しかも遮音性が向上してベスト」という意見を各所で見聞きします。私としてもコンプライタイプはイヤーチップの耳穴への違和感が少なく、良好でした。
けれども IE 40 PRO の音質的にはどうかと言いますと、シリコンラバータイプのほうが耳穴の中でイヤーチップが比較的自由に「動いて」くれる分、イヤーチップの穴から出る音が正しく耳穴の奥に注がれる感じで良いように思います。私の場合あまり大きな音で聴くわけでもないので、遮音性よりも音の聴こえから、現在はシリコンラバータイプをメインで使っています。
手頃な価格の IE 40 PRO ながら4つのイヤーチップが最初から入っているのは、装着感や音の違いをすぐに確認できる意味で有りがたいことです。
以上のことから、IE 40 が言うところの PRO の意味が少し見えた気がします。要するにステージやスタジオで迷わずに使える仕様、しかもより多くの人に使ってもらえる手頃な価格で提供し「現場でのスタンダード」を目指していることを示すキーワードではないかということです。それって同じゼンハイザー社のモニター用ヘッドフォンとして普及しているHD25が担っている役目と重なりますよね。
インナーイヤータイプのヘッドフォンはドライバー部分の開発・進化が著しい製品であり、メーカーによってはドライバーに投入しているパーツのランクに沿って「同じ用途&外観だけどドライバーのランクで製品バリエーションを設ける」といった商品展開をしているところもあります。
ゼンハイザーは「使われ方の違い」を明確に意識して製品のラインアップを組み立て始めていることが伺えます。そう読み取りますと、IE 40 PRO は値段こそ手頃ながらゼンハイザーの製品のなかで今後大きな役目を担う、重要なモデルになってゆくのではないかと思うのであります。
最後にもうひとつ。
私は IE 40 PRO を FiiO の BTR3 に接続して使うため、できれば今よりも短いヘッドフォンケーブルの登場を願っているのですが、それまではケーブルクリップを使って余計なケーブルを固定しておこうと思います。
ケーブルクリップにはゼンハイザー純正の、わざわざIEシリーズ対応をうたった製品もあります。今回は巷の評判を見て(株)須山歯研「FITEAR」ブランドのケーブルクリップを購入しました。
ボタンを押して簡単にケーブルをセット/リリースできる機構が特徴。なかなか快適です。
追記(2019年5月21日):
上位モデルとなる「 IE 400 PRO」と「 IE 500 PRO」が Amazon US での発売が開始されました。でも別の記事にも書きましたが手元の IE 40 PRO がいい感じに仕上がっているので、しばらくはこれで良さそうです。クラシック(オーケストラ系)は聴かないけれどジャズもいける。かなり満足しています。
その後の記事:
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